第35話「異店舗転職して万能『調理魔法』で無双しようと思います」
「私、メグといいます。よろしくお願いします!」
先の入店希望者もといメグは、面接官の店長と対面すると元気よく挨拶をした。
「はい、よろしく。で? 何かアピールポイントは?」
面倒くさそうに頬杖をつきながら、店長がメグへの質問を開始する。本人にその気は無いのだろうが、これではまるで圧迫面接だ……。
「『調理魔法』の力で料理を一瞬で作ることができます!」
それにもめげず、メグは元気よくそう答えた。
「よし、採用。早速明日から、いやもう今日から入ってくれ。そして私の睡眠じか……ゴホン……『コルボ』に貢献してくれ」
メグの回答を聞いた店長が食い気味に採用の返事をする。何か私情が混ざっていたような気もするが、きっと気のせいだろう。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
それを聞いたメグは嬉しそうに頭を下げる。
「『プルメラ』で磨いた腕、存分に振るわせていただきますね!」
「ああ。よろしく」
まるで憑き物が落ちたかのように晴れやかな表情に変わったメグ。その目は心なしかキラキラ輝いているようにも見えた。
「おーい、カリン! 『まつり縫いのリサ』の連絡先持ってるかー?」
「あるけどそれがどうしたのよ? まさか制服作らせる気……?」
「そうに決まってるだろ。知人に頼めばコストもかからないしな」
「その考え方は嫌われるから、改めた方がいいわよ……」
アオイから電話の件を聞き、「まあ一件くらいなら話聞いてやってもいいか……」としぶしぶ面接の予定を組んだ店長だったが、思わぬ収穫に内心テンションが上がっているようだ。珍しくかなり前のめりに事を進めようと暴走しているのが見て取れた。
「あれ? 『プルメラ』って確か……」
アオイが何かを思い出したかのように呟いた一言は、誰の耳にも入っていないようだった。
***
「こんにちは……。『まつり縫いのリサ』です……。どの方の制服をお作りすればよろしいでしょうか……?」
しばらくすると、カリンから連絡を受けたリサが本当にやってきた。
「うちの新入社員だ。コイツのを頼む」
店長はメグのことを指差して言った。
「店長さん、これまたカワイイ娘を連れてきましたね……。実にお目が高い。ええ、『採寸』さえさせていただければ、いくらでもお作りさせていただきますよ? ぐへへ」
「ああ、よろしく」
何故か涎を垂らしている衣装屋に迫られ、頭に「?」を浮かべるメグ。
「リサさん……でしたよね? あの……その両手はいったい……」
リサの両手はワキワキと怪しくうごめいている。
「すぐに終わりますから、じっとしていてくださいね。大丈夫ですよ、痛くはしませんから。ぐへへ」
「いや、そういう問題では……。いやぁあああ……!」
リサがメグの背後に回り、その両胸を鷲掴みにして揉みしだき始めると、哀れなメグの絶叫が店中に響き渡った。
***
「うぅ……。もうお嫁にいけない……」
床に膝をつき、シクシクと泣き崩れるメグ。同情するように無言でカリンがその肩を叩く。
「いいデータが取れました。流石に今日中は無理ですが、明日には作ってお届けしますね」
反面、とても満足したような顔でリサは店を後にしていった。
「というわけだ。明日からよろしく頼む」
こうして無事に(?)メグの初出勤が決まったのであった。
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