第34話「ある日突然有名料理店から追放された私」
都内某所。とあるレストランにて。
「え……? キッチン業務をワンオペしてる私を解雇……?」
「ああ、その通り。君はもうクビだと言ったんだ、メグ」
メグと呼ばれたピンク髪の少女とメガネの中年男性が、何やら深刻そうな話をしていた。
「そんな……! 今までだってたった一人で頑張ってきたのに……」
「その点についてだけは評価している。ただこの度我々は、より腕の立つシェフを雇うことができた。本場イギリスで三日も修業したという腕利きをね。我が店『プルメラ』が更なる高みに達するために、君の力はもう用済みということだよ」
メグの必死の訴えにも男性は耳を貸さず、メガネを光らせて冷たくそう言い払うのみであった。
メグはその小さな右手を強く握りしめ、立ち尽くす。生温かい水滴が左の頬を伝って落ちていくのがわかった。
「……。わかりました……。今までありがとうございました……」
溢れ出そうになる感情を抑え、必死に最後の礼儀を果たそうとするメグ。
「分かったらさっさと荷物をまとめて出ていきたまえ」
しかし、それすらも男には冷たくあしらわれるのみであった。
***
プルルルル。
開店前の「コルボ」店内に、電話の呼び出し音が響き渡る。
「はい、魔法カフェ『コルボ』です。どういったご要件でしょうか?」
アオイが受話器を取り、応対する。
「はい……。はい……。そうですか……。ちょっと責任者がまだ出勤前ですので……。はい……。また折り返させていただきます……」
受話器を置くアオイ。
「どうしたの? 店長待ちなあたり、いつもの『八九三組』の予約ではなさそうだけど……?」
電話の終わったアオイに、ノアが尋ねる。
「まさか入店希望かしら? ってそんな訳ないわよね」
カリンも冗談半分で軽口を叩く。
「え? すごい、カリンちゃん! よく分かったね!?」
「え?」
まさか当たるとは思っておらず、面くらうカリン。
「でも、うち確か募集止めたはずよね……? 『もう面接なんて懲り懲りだ。休憩時間削って損した』なんて言って店長が」
60人近くの面接をした挙句全員落としたあの日以来、店長は面接することすら面倒臭がるようになってしまった。
「うちホームぺージもチラシも無いのに、その人よく番号分かったね」
ノアも不思議そうに首をかしげる。
「そういえば、そうだよね……? でも、とりあえず店長さんが来たら、電話があったことだけでもお伝えしないと」
「まあ、一応ね。店長どうするのかしらね……?」
「『あー、うち面接終わっちゃいまして』とか言ってテキトーに断るんじゃない? きっと」
「あー……確かに言いそうね……」
「コルボ」では珍しい出来事の発生に三人が盛り上がっている間に、いつの間にか時計の針は「10:40」を指していた。
「あ、もうこんな時間!? 仕込み全然終わってないわ……」
そのことに気づいたカリンの一言により、三人とも現実に引き戻され、慌てて各々の仕事へと戻っていった。
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