第36話「ぼんげ先生の魔法学講座Ⅰ」

「改めまして、今日から『コルボ』で働かさせていただくメグといいます! よろしくお願いします!」


 翌日。今朝リサから届いた制服に身を包んだメグが、メンバーたちへと元気な挨拶をする。


「メグちゃんよろしくね~」


 メンバーたちも、待ちに待った新人の加入を喜んでいるようだ。


「じゃあメグはキッチン入ってくれ。『調理魔法』があれば問題ないだろうが、まあ何かあったら呼んでくれ。私は事務所で一ねむ……一仕事してくる」


『調理魔法』の使い手という大型ルーキーに自らの役目を一任し、事務所へと引きこもろうとする店長。


「今一眠りって言おうとしたわよね……?」


「気のせいだ、気のせい」


 そんなカリンとのやり取りを挟みながらも、一仕事(?)しに店長は事務所へと入ってしまった。


「はあ……。まあいいわ……。よろしくね、メグ」


「はい! 皆さんのお役に立てるよう頑張ります!」


 ふんす、と決意表明をし、メグは張り切って厨房へと向かうのであった。


         ***


 突然だが、ここで一つ。魔法についての解説を挟もうと思う。はい、拍手~。


 魔法というとあたかも「無条件に何でもできる」といったイメージを抱く方も多いと思うが、現実世界へ干渉する以上、その事象を起こすに足る相応のエネルギーが必要となる。カリンであれば発火のための熱エネルギー、アオイであれば水を動かすための力学エネルギー、ノアであれば強化分の重力エネルギー、といった具合のものだ。


 それらのエネルギーは術者の魔力から変換される形で賄われる。より強力な干渉をしようとすれば、より多くの魔力を要するという訳だ。


 ここで問題になるのが「無から有を生み出す」場合だ。現に存在しているものに対しての干渉であれば、規模にもよるが現実的な魔力消費で済む。しかし、存在しない物を一から作り出すには、それとは比べ物にならない莫大なエネルギーが必要となる。宇宙の誕生がビッグバンを要したように。


 召喚術などがこのカテゴリの代表例だが、メグの調理魔法も「完成品の料理を召喚する」という召喚術の一種に該当する。


 この手の術の使用にあたっては、よほど高位の魔法使いでもない限り、本人の魔力だけで完結させることは難しい。例に漏れず、メグもそれだけの魔力は持ち合わせていない。


 その場合は外部から何らかの形での魔力援助を受けるか、何らかの代償を払うこととなる。代償というと「発動の代償に術者が命を落とす」なんてケースを聞いたことはあるかもしれないが、これは極端な例で、代償にも様々な種類が存在する。


 そして、この場合の代償とは……


         ***


「カリン氏……。今日のチーズフォンデュ、パンクしたタイヤの味がするでござる……」


「アオイちゃーん! このオレンジジュース、地面に落ちてから一週間くらいたったベチャベチャの柿の味するんだけどー! マジウケる」


「姐御……。いくら姐御のためといえ、血抜きも一切してない鹿肉の唐揚げはちょっと……」


 そう。メグの「調理魔法」は、料理として一番肝心な部分である「味」を著しく損なうという代償により成立する術なのだ。


 次々と巻き起こるクレームの嵐で、阿鼻叫喚の大騒ぎとなる店内。


「ちょっと店長叩き起こしてくるわね!」


 カリンによって叩き起こされた店長が、全員分を作り直すまで、この大騒ぎは留まるところを知らなかった。


         ***


「メグ。お前クビな」


 ランチ営業の終了と時を同じくして、メグは解雇となったのだった。

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