第11話「アオイさんぽ」
こんにちは、アオイです!
今日はこれからお仕事です。天気もいいので、お散歩しながら向かおうと思います!
お店のある街はとてものどかないいところです。たまーにヤクザさんたちが喧嘩してますけど……。そういえば昨日も喧嘩してましたね……。
家の近くにある大きな公園を通ると、お店のある商店街まで近道なんです。春になると桜が咲いて綺麗なんですよ。
公園の真ん中には大きな噴水があって、私はここでたまーにこっそり魔法の練習をしています。見つかっちゃうとすごい注目の的になっちゃって恥ずかしいんですけどね……。この前も子どもたちに囲まれちゃって、嬉しい反面すごい恥ずかしかったです……。
公園の近くには美味しい喫茶店もあるんですよ。そこは搾りたてのフルーツジュースが有名でテイクアウトもできるので、公園でもよく持って歩いている人を見かけます。
今も家族連れの方が、ジュースを持って歩いてます。女の子もオレンジジュースに大喜びではしゃいでいますね。でも、そんなに走ると危な……あ!転んじゃう!
とっさに零れそうなジュースに意識を向けてみます。すると地面に吸い込まれるのを待つのみであるはずだったジュースを、なんとか魔法で浮かばせることに成功しました。ふう……。
「いたた……。あぁ、あたしのジュース……ってあれ?」
女の子はすっかりジュースをこぼしてしまったと思って泣きべそをかきかけますが、何かがおかしいことに気づいたみたいです。
こぼれたはずのジュースがぷかぷか浮かんでいるのを見て、転んだ痛みも忘れて、目を輝かせています。せっかくなので、お魚さんに形を変えて泳がせてみましょう。ファンサービスです。
「すごーい! これお姉ちゃんがやってるの~?」
バレちゃいました。
「うん、そうだよ~。えい!」
今度はちょうちょに姿を変える。
「おー!」
「あれ? 『コルボ』のアオイちゃんじゃん?」
「パパ~! 見てみて~! いつもの噴水のお姉ちゃんだ~!」
想像を上回る歓声に驚き振り返ってみると、いつの間にやら人だかりができてしまっていました。
どうやら少し調子に乗って目立ち過ぎちゃったみたいです……。
「じゃあ、そろそろジュース戻してあげるから、コップ持っててね~」
慌てて締めに入ろうとしましたが……。
「ありがとう、お姉ちゃん。でもコップもストローも土まみれ……」
あっ……。
中身だけはなんとか救出できたものの、それ以外は私には救えなかったのでした……。
「あ~、そうだよね……。どうしよっか、これ……? あはは……」
二人して途方に暮れていると、女の子のお父さんがお店から空のコップとストローを貰ってきてくれたみたいです。よかった、よかった。
新しいコップにジュースを注いで、女の子に返しました。
「ありがとう、お姉ちゃん! そうだ、お礼ににこれあげる!」
そう言って女の子から渡されたのは、可愛い少女のキャラクターが描かれたアニメのシールでした。確かこれって? カリンちゃんが着てた……
「『ぷりてぃ☆うぃっち マジカル☆フェアリー』のメルロちゃん! よく見るとなんかお姉ちゃんに似てるね? お姉ちゃんってもしかして
「あはは……。違うよ~」
カリンちゃんがこの前着てたアニメのブルー担当の子でした。言われてみると、似てる気もするようなしないような……。
「あ、ショーに遅れちゃうからもう行くね! お姉ちゃんまたね~!」
私もそろそろ行かないと遅刻しちゃいますね。受け取ったシールをポーチにしまい、わたしも駆け足で公園を出るのでした。
***
長居し過ぎました……。このままでは完全に遅刻です……。商店街を小走りで、お店の方へと急ぎます。
その最中、何やら見覚えのある小さな男の子が。あの時の迷子の子ですね……。嫌な記憶がフラッシュバックしてきました……。
恥ずかしながらあの時、途中で耐えきれなくなって逃げ出してしまい、その後どうなったかよく知らないんですよね……。カリンちゃんに聞いても「まあ……世の中には知らない方が幸せなこともあると思うわよ……」なんて遠い目で言うばかりで結局教えてくれませんでしたし……。
まあわざわざ話しかけなければ気づかれることもないでしょう。そう思って足早に通り過ぎようとした矢先……
「あ、あの時の!」
見つかってしまいました……。次に来るであろう口撃に備え、咄嗟に心の準備を固めます。
「その節はとんだご無礼を働いてしまい、誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!! 落とし前、つけさせていただきます!!!」
……あれ?
久しぶりに会った彼は、何故かお店のヤクザさんみたいな話し方になっていました。いったい彼の身に何があったというのでしょう……?
「とりあえず、指、詰めさせていただきます!!!」
「いや、指は大事にしようね……?」
まあ、このくらいの歳の男の子って色んなものに影響受けやすいですからね。ヤクザもののアニメでも観たんでしょう。きっと。
彼の取り出したナイフがおもちゃであることを祈りながら、私は足早に少年の元を立ち去るのでした。
***
商店街の真ん中には小さなイベントスペースがあります。ここが見えてくればお店はもう目前です。なんとか遅刻しないですみそうですね。
今日は何かのイベントがあるのでしょうか? スタッフの皆さんが慌ただしく駆け回っています。
「え!? メルロちゃん役の役者が、タンスの角に中指をぶつけて来られない!?」
「どうするんだ!? もうすぐ開場時刻だぞ!?」
「楽しみに待っている子どもたちのためにも、今から中止にはできないぞ!? うちの娘だって楽しみにするあまり、夜しか眠れてないというのに!?」
何やらトラブル発生のようです。大変そうですね……。
先ほどから何だかスタッフさんたちが、すごーく私のことを見ているような気がするのですが……。きっと気のせいですよね……?
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