第10話「変態狩りの魔女」
「誠に申し訳ありませんでした……」
カリン渾身のエルボーがみぞおちに決まり、床へ這いつくばるリサの姿がそこにはあった。
「で? これはいったい何のマネなのかしら?」
足元に転がるリサとついでにフォンデュ男を睨みつけるカリン。
「カリン氏、誤解でござる! これはリサ氏の魔法なのでござる!」
「はい……。私の魔法は『触れた物のサイズを測る魔法』なんです……」
徐々に起き上がりながら弁明するリサ。
「へぇー。それはまた便利なんだかそうでもないんだかってところね……」
「私の遠い先祖なんかは、遠くからでも相手のありとあらゆる情報を読み取ることができたんですけど……。それも今となってはこんな形でしか残ってないんですよ……」
どうやらリサの先祖はその筋のエリートだったようだ。
「まあ今のご時世、そんな術残ってたら悪用し放題だし、廃れてくれてよかったのかも知れないわね……」
「私としてはすごく残念なんですけどね……。あはは……」
魔法談義に華を咲かせ、カリンとリサの間に和やかな空気が流れ……
「で? わざわざ揉む必要は有ったのかしら?」
……ることはなかった。
「……」
「……」
「……なんか言いなさいよ?」
「……私の趣味です」
カリンの圧に負け、リサがついに白状した。
「リサ氏はカリン氏のような、『無くはないけど有るとは言い難い、なんとも言えない絶妙なサイズ』が大好物なのでござる」
「ええ、あまりに最高な揉み心地に私、恥ずかしながら興奮してしまいましてね。ああ、思い出したらヨダレが……」
勝手に盛り上がる変態二人。
「えっと、つまり? 要約すると、二人とも『死にたい』ということでいいのかしら?」
微笑みを浮かべながらも目が笑っていないカリンが、広げた右の手のひらに火球を灯す。燃え上がる怒りのせいなのか、その炎はこころなしかいつもより大きく見えた。
「ああ、カリン氏! 今すごく魔女っぽ……い、いや、命だけはお助けをー!」
「申し訳ありませんでしたあぁぁぁ!」
変態二人の断末魔が、店内中に轟いた。
***
数日後。
「こんにちはー! お届けものでーす!」
「お世話様です~」
営業前の店内に、一件の宅配便が届いた。
「えっと、カリンちゃーん! 『まつり縫いのリサ』? って人からお荷物来てるよ~!」
受け取ったアオイは、伝票の内容を見てカリンを呼んだ。
「そこ置いといてー! ……あの二つ名自分で名乗ってたのね」
アオイに呼ばれ、カリンは荷物を確認に向かう。
「カリンちゃん、これ新しい衣装? 着てみて、着てみて?」
「もうコスプレは懲り懲りなんだけど……。まあせっかくもらったし、着るだけ着てみるわね……」
アオイからの期待の眼差しに耐えきれず、カリンはしぶしぶ更衣室へと向かった。
***
「カリンちゃんかわいい~!」
アオイがはしゃぎ声を上げ、そのスカイブルーのスマートフォンを構えている。カシャカシャとカメラのシャッター音が、開店前の店内に響く。
アイドルもののアニメを彷彿とさせる、大きなリボンやフリルの施された赤のミニワンピース。
赤いリボンがワンポイントの、純白のアームカバーとオーバーニーソックス。
燃えるような赤色でありながらも、可愛らしいハートの形のジュエリーが一際目を引くティアラ。
これら全てを身につけた今のカリンは、誰がどこからどう見ても
「って、これ女児向けアニメのコスプレ衣装じゃない!? 何が『店のイメージに合うもの』よ!?」
……そう。アニメ的な意味で。
カリンが身につけたそれは、女児向けアニメ『ぷりてぃ☆うぃっち マジカル☆フェアリー』で、主人公のロゼが着ているコスチュームだった。
「お手紙も入ってるよ。どれどれ?」
段ボールの中に入っていたリサからの手紙を、アオイが拾い上げ読み上げる。
「御三方を初めて見かけたとき、ビビッときました。間違いなく『ぷりっち』のコスチュームが似合うと! 本業もあるのでカリンさんの分しか作れませんでしたが、今度御二方の分も作りたいのでぜひ
文章越しでも、鼻息を荒げるリサが容易に想像できた。
「
アオイは先日のカリンの惨劇を思い出し、苦笑いを浮かべる。
「アオイはともかく、ノアにやった日には間違いなく東京湾に沈められるわね……」
そんな雑談をしている最中、カリンの視界が制服を運んでいるノアを捉えた。
「あ、ノア!? 待ちなさい! 私の制服返しなさーい!」
この間の二の舞にだけはならぬと言わんばかりに、魔法少女らしからぬ鬼の形相でノアを追いかけるカリンであった。
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