捕縛の手腕
「そうだ、次の目的地とか決まってるの?」
「とりあえず、あの大きな樹木の所に行こうと思ってる」
「私も着いていって良い?」
「いいぞ」
旅は道連れだからな。
それに旅仲間を増やしたいと思ってた所なんだ。
一緒に着いていく分には何も問題ない。
俺達は世界樹に向かって歩きだす。
歩みを進めれば進める程、ここが本当に豊かだと実感する。
硝煙に妨害されない日差し、自然豊かに生い茂る草木、変な臭いもしない気持ち良い風……過去の俺の懇意に反して、異世界は天国のような場所だった。
少し前なんて異世界の存在を信じていなかったのに、今こうして実物をお出しされたら、楽しまない方が無粋だろうな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
歩き出して数時間経過しただろうか。
日も高く昇って、そろそろお昼時に差し掛かる頃合い。
俺達はやっと目的地に着いたようだ。
「わぁ……」
遠目で見るとデカい樹木以上の感想は無かったが、近くで見ると圧巻だな。
どうやったらあんなに大きく育つんだ?
ファントム曰く世界エネルギーをリサイクルしてくれる樹木らしいから、おかしな話でも無いのか?
「……思ったんだけどさ、いくらなんでも街の警備がザルじゃない? それなのに何で治安が良い感じなの?」
それは俺も思ったな。
本来なら悪さしないための警備が居るはずだ。
でなければ犯罪だらけの街になるからだ。
だけど、そんな殺伐とした様子も無い。
一体どんなシステム組んでるんだ?
「へっ、貰い!!」
おいおい、警備がザルとは言えあんな堂々とスリ行為とかバレるに決まってるだろ。
あの様子、多分同業者だな。
同じく罪に問われたく無いから関係ないフリしとくけど。
(馬鹿だな、あいつ)
あ、やっぱり何か治安システムあるんだ。
ここは異世界だから、警備が置かなくても犯人を捕らえる様な物があってもおかしく無いわな。
さて、その手腕を見せて貰おうか。
「な、なんだ?!」
俺がスリの下手さに呆れていると、突然犯人の下から木の枝が生えてくる。
その木の枝はその茎をしならせて犯人を捕らえる。
こうして縛られた犯人は身動き取れなくなりましたとさ。
「嘘?!」
「(口笛を吹く) 恐ろしいな」
そして、その縛られた犯人の側にもう一つの影が忍び寄る。
それは、木で出来た人形だった。
木製の人形は縛られた犯人に近寄って担ぎ上げる。
そして木製の人形は、今も罵声を浴びせてくる犯人を何処かに連れ去ってしまった。
「シルク、ここでの犯罪は辞めた方が良さそうだな」
「う、うん……」
街全体に監視&捕縛システムがあるんだったら、そりゃ警備なんて要らない訳だ。
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