盗み食い

目が覚めたら少女が一人隣で寝ていた。


なんで???


近くのタツベリーに少し荒らされた形跡がある。

もしや、こいつ盗み食いしようとして触れたな?

まさかモンスターじゃなくて少女が狙って来るとは……。


「へい、そこの小娘!! あと十数える内に起きなかったら痛い目みるぞ!!」

「………………」

「十」

「…………………………」

「一!!」

「起きてる!! 起きてるから襲わないで!!」

「起きてるんじゃねぇか」


この盗み食いしようとしていた少女、なーんか硝煙の臭いがする。

こんな空気が良い異世界でそんな臭い漂わせながら生きている少女が居るか?


「トカゲは?」

「……食料?」

「年中?」

「バイト」

「金持ちは?」

「奪え!!」

「「同業者かよ!!」」

(???????)


まさか、この世界に来て初めての出会いが同業者だとは思いもしなかったよ。


ファントム君にも分かりやすいように説明するとだ。

これは我々金持ち被害者貧困層の秘密の暗号みたいなやり取りなんだ。

元の世界は本当に過酷で貧富の差が凄く激しい。

だから、富裕層は貧困層を見捨てて安全快適なネオシティに固まって住んでいるんだ。

で、それ以外の人権もクソも無い我々貧困層は世紀末と化した治安が終わってるネオシティ外で、ほそぼそとバイトしながら生きている訳なんだよな。

多分、彼女もその一人だ。


(本当に大丈夫なのか? お前らの世界は)


はっはっは、逆に大丈夫だと思うのか?

こちとら、ガラクタ集めてスクラップにする仕事で富裕層の一割にも満たない給料だぞ。


あれ、何故か涙が。


「突然穴が空いて、この世界に落ちちゃった時はどうなる事かと思ってたけど、同業者と出会えてよかったよ!!」

「俺もまさか目が覚めたら同業者が盗み食いしようとしてるとは思わなかったな〜」

「な、なんの事かな〜」

「……そう構えなくてもいい。戦闘の意思は無いし、する必要も無い」 


元の世界なら今のやり取りの後にバトルが発生していたが、ここは食料も素材も溢れてる異世界だから物資を取り合う必要が無いんだよな。


「…………私も異世界に来てまで争いたくないしね」

「俺の名はラーク、お前の名前は?」

「私はシルク。ラークはこうなった原因って分かる?」

「うん」

「分かるの?!」


俺はこれまでの事をシルクに話した。

一応ファントムの事は伏せておこう。

同業者は口止めしても報酬だけ先払いで貰ってからベラベラ周りに喋るだろうという嫌な信頼がある。


「そんな事あったんだね……これ多分、私たちだけじゃなくて他の人も異世界来てるよね?」

「可能性は高いだろうな」


この異変はあのアマテラス社バカ共が引き起こした人為的な災害だ。

もしかしたら、他の地域では異世界人が大量発生とか起きてるかもな。

それはそれで面白そうだけど。


「というか、テレビ持ってるんだ。羨ましいんだけど」

「あのテレビはガラクタから弟と一緒に作った共同作品でな、結構頑張って作ったんだよ」


そのテレビのせいで弟が異世界ファンになったのは何とも言えないもどかしさがあったけどな。

でも、弟も異世界来てるんだったら、きっとどこかで異世界ライフを謳歌してるんだろうな。

弟に合った時、どんな土産話聞けるか楽しみだ。

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