野宿

次の目的地はあの世界樹にするとして、もう日の光が落ちかけている。

完全に暗くなるまで世界樹に辿り着ける気がしないから、今日は野宿になりそうだ。


「ラーク、野宿の心得はあるか?」

「勿論。俺はあの半分世紀末を生き抜いてきた男だぞ」


元の世界じゃバイト先を見つけないと快適に生活出来ないような、最高にクソな世界だからな。

俺も金を稼ぐ手段を見つけるまでは野宿してた。

 

俺はそこら辺に落ちている木片を集めて、非常に原始的な方法で火を灯す。

こんな事になるならライターやナイフとかも携帯するべきだったかな……と無駄口を叩きながら着々と簡易的なキャンプ場を作る 

そこら辺の木の枝や葉っぱで寝床を作って、丸太を並べて椅子代わりにしてと。

後は水や食料があれば完璧なんだけどな。


「お、あそこにタツベリーがあるぜ」

「食べれるのか?」

「確か水を多く含んで栄養価も高いって聞いたことがある。携帯食料として持ち歩いている奴をよく見かけたんだ」

「いいね」


現状で今最も欲しい食べ物じゃないか。

見た目はブルーベリーに似てるが、食べてみると甘くて水々しい。

どちらかといえば、イチゴとかに近いな。

今後ともタツベリーにはお世話になるだろうから、多めに採取しておくとしよう。


「そういえば、聞きそびれてたんだけど……俺が異世界から来たって言った時あんまり驚かなかったよな」


なんというか、あっさり俺の素性を認めた感じがする。

俺の記憶とかも見てるんだったら、疑うまでは行かなくとも多少驚いてもおかしく無いのに。


「そりゃぁ……が居るからな」

「前例?」

「賢者ダルタンだ」


賢者ダルタンも他の世界から来た人なのか?!

話の流れからして事件が起こる前からこの世界にやってきた人なのかもな。


「ラークや賢者ダルタンのように他の世界からやってきた奴を人はと呼ぶ。そいつらは、たまーにこの世界に現れては時代を変えてきたのさ」


別の世界とは言わずとも、別の国の知識や技術が流れた時に時代が動くのは何となく分かる気がする。

まだ見ぬ技術なんて、取り入れたら文明レベルが上がるに決まってるし、それを使えば更に豊かになるもんな。


狩りの時代を終わらせたのも、稲作という新たな技術を取り入れたからだ。

剣や弓の戦争の時代を終わらせたのも、鉄砲という新たな技術を取り入れたからだ。


どの世界でも、そういう所は変わらないものなんだな……。


「俺様はそういう奴らの記憶を読み取ってるから、他の世界があるという確証は得ているんだ。行ったことは無いけど」

「少なくとも、今行くのはオススメしないな」

「そうだな、明らかに苦しそうだもん」


元の世界は終末に片足突っ込んでるからな。

この世界の方が幾分マシだろう。


「食事はこれくらいにして、明日の朝また食べよっと」


タツベリーは意外と腹が膨れるから、少し残ってしまった。

朝起きたら腐ってるとか……無いよな?


「他のモンスターに食われる事はあるかもな」


それは不味いな……葉っぱで隠しておくか?

いやいや、生き物の嗅覚を舐めるな。

奴らはどんな場所に隠しても嗅ぎつけるからな……。

あ、そうだ。


「トム、タツベリーに【睡眠付与】出来るか?」

「なるほど……お前頭良いって良く言われないか?」

「存分に称えな」


これなら、他のモンスターに食べられる心配も無い。

触れた瞬間におやすみモードだからな。


「そろそろ日も落ちてきたな……寝るか」


俺は葉っぱのベッドに寝転がる。

数時間前の俺はまさか異世界で寝る事になるとは思いもしなかっただろう。

世の中、何が起こるか分かったものじゃないな。

分からない事だらけだが、こういうのは着実に理解していくに限る。

それに、弟は一体どこに行ってしまったんだろうか。


ルーク、必ず見つけ出してやるからな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふわぁぁ……おはよう」


日差しに当てられ目が覚める。

太陽は俺の顔を照らし自然の空気が気持ちの良い朝を提供してくれている。

硝煙漂う元の世界では決して有り得ない快適さだ。


「うーん……むにゃむにゃ……」


……。

………………。

………………………………。


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