夢の木

「……ありがとう、ファントム。お前が居なかったらネズミに殺られてた」

「おうおう、存分に称えな」


こんな奴がこの世界にはウジャウジャ居るのか……とんでも無いな、異世界。

それに、意外とファントムって役に立つんだな。

ガヤ兼マスコットだと思ってたのに……。


「誰がガヤ兼マスコットだ!! 言っとくが、今の俺でもお前より数倍強いからな?」

「だろうな〜俺も体とか鍛えた方が良いのかな」

「少なくともお前一人で戦えるぐらいにはなって欲しいな。そうすれば俺様がもっとノンビリ出来る」


今も十分寛いでるだろ。

でも、強くなるのには賛成かな。

ファントムに頼らないとロクに戦えないんじゃ、いざそっぽ向かれた時何も出来なくなるしな。


「こう、何か武器が欲しいよな。刃物系が良い」

「村とか街には必ず武器屋がある。そこで何か買ってくのはアリだぜ」


武器屋か、あんな獰猛な奴が居るんだ。

自衛手段を充実させる店があるのはおかしな話じゃない。

元の世界じゃ武器屋は裏の店ってイメージだが、この世界は探せば割とあるんだろう。


「って言っても、今お金が無いんだよな〜どこか雇ってくれないかな」

「それなら街だな。知ってるか? この世界にはって職業があって、依頼をこなす事で生計を立ててる者達が居るんだ」


冒険者……依頼をこなす仕事なら探偵とか傭兵みたいなものだろうか?

確かにそれが手っ取り早いかもしれない。

まずは雑用から初めて資金調達しつつ、弟の行方を探る。

これなら、行けそうな気がしてきた。


「お、出口か?」


あの薄暗かった洞窟は徐々に明るくなり、遂に外へと繋がる扉を発見した。

……ボロボロだけど。

きっと、あのネズミが突き破って来たせいなんだろうな。

俺は扉を蹴り飛ばして、洞窟の外に出た。


洞窟の外は大きな山脈、そして大自然と表現するに相応しい森が広がってほしいいる。

そして一番目に映るのは、天まで登る程巨大な樹木だ。

どうやったら、あそこまで育つのだろうか。

流石と呼ばれるだけあって、こうして見ると壮観だな。


「……で、街はどこにあるんだ? 見たところ、山と木々で覆われた大自然しか無いが」

「気配は……あっちの方からするぜ」


うん?

ファントムは意識を巨大な樹木に向けた。

確かによくよく見たら下の方に建造物がある。

大きな物に目を奪われて全然気付かなかった。

これが灯台下暗しって奴か……。


「中々オシャレな場所に住んでるじゃないか」

「あれはって言われてる巨木で、世界中の魔力を循環させてるんだぜ?」

「世界樹? 凄そうな名前だな」

「お前の居た世界で例えるなら……もし、世界中で使われたエネルギーを勝手に回収して再分配してくれる木があるならどうなる?」

「……世界のエネルギー問題解決しないか? それ」


元の世界では、エネルギーは有限な資源とされている。

何故なら、使ったら使った分だけ無くなるからだ。

再利用するにしても、人力じゃ効率が悪すぎて節約にしかならない。

結局徐々にエネルギーが尽きていく運命は避けられない。

そういえば……最近近い未来、世界が終わるとかも流行ってたっけ。

確かに元の世界はエネルギーが枯渇しかけているせいで、地獄のような世界になっている。


だが、もしそれを解決出来る木があるのなら――

 

「そんな夢の木が世界樹なのさ」


そんな凄い木があるなんて、流石は異世界と言ったところだろうか。

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