おかしな気配
一体何が起きたのだろうか。
目が覚めた俺は状況を確認する。
あの儀式の失敗を見届けたと思いきや、突然真下に亀裂が走って大穴が開いたんだ。
そうして、その大穴に落とされた俺
「ん? ちょっと、待て。弟は?」
そこで違和感に気づく。
この場には俺一人しか居ない。
本来なら、二人居るはずなのに。
「弟は、ルークはどこに行ったんだ?」
返事は返ってこない。
先に目覚めてどこかへと行ってしまったか、それともまた別の所へ飛ばされてしまったのか。
あの大穴は異世界へのゲートが大失敗した放送を見た直後に現れた。
関係が無い事は無いだろう。
ここが異世界だとでも言うのか?
「おい、誰か居るのか?」
どこからか声が聞こえた。
一瞬弟かと思ったが、声色が違う。
だけど、もしかしたら、弟の手掛かりを持っているかもしれない。
俺は声の出所を頼りに洞窟を進んでいくと、何やら光の壁のようなものが道を塞いでいた。
「誰だ、お前」
俺がそう問うと同時に頭にノイズのような音が響いた。
思わず耳を塞ぐと、すぐにノイズは消えていく。
「ふぅ、暇すぎて死ぬかと思ったぜ」
「えっ、なんで声が!!」
頭の中に変な声が響いている。
まるで、自分の中に
「俺様の名前はファントム――適当にトムで良いぜ?」
「あ、俺の名前はラーク……って、なんで俺の中に居るんだよ。出てけ」
俺が頭を叩くが、一向に出ていこうとはしない。
それどころか、ケラケラと笑いながら凄く寛いでる感覚がした。
まるで、自分の部屋かのように。
「そう邪険にするなよ〜俺様はお前に感謝してるんだぜ?」
「感謝?」
「そうさ、お前が霊峰の洞窟に来なかったら俺様はあのまま封印されたままだった」
霊峰の洞窟……ここの事か。
そして、封印だと?
多分、この光の壁の事だな。
確かに札が何枚も貼り付けてあって、剥がそうと思えば簡単に剥がす事が出来た。
「お前が思ってる通り、それは封印の結界だ。最近は札の効力が弱まって少し力を取り戻した。そこにお前が来たもんだから、その力を使って乗り移らせて貰った」
「そうか、出てけ」
「嫌だよ、ここ快適なんだもん」
こいつ……!!
俺はまんまと良いように使われたって事だ。
せっかく、弟の事知ってるか聞きたかったのに。
「お前弟居るんだな」
「うるさいな、関係ないだろ」
こいつ、堂々と俺の考えてる事覗いてやがるな。
土足で家に上がられた気分になる。
「でも、お前が現れる前ににおかしな気配はしたな……」
「おかしな気配?」
「なんか世界にヒビが出来た感覚がするんだよな。その後に気配が大量に増えたんだ」
「……俺以外にも来てる奴が居るのか」
確かにあの事件が起きた後に俺はこの世界に落ちた。
そして、事件の影響が丁度俺達の住処だけ……というのもおかしな話だ。
もし、その影響が他の地区にも出てるのなら、この世界に落ちたのは俺達だけじゃないのかもしれない。
「なるほど、なるほど、お前の大体の事情は察した。他の世界から来たんだな」
「まぁ、そうだな。あの事件のせいで、俺達はこの世界に来てしまったのかも」
「そりゃ災難だったな〜」
いや、災難で済むわけ無いだろ!!
俺の弟も巻き込まれたんだぞ!!
今もどこに居るか分からないのに……。
「というか……トムで良いんだっけ?気配が増えたって言ったな」
「そだね」
「それで弟の気配も読めるか?」
「無理」
なんだよ、全然使えないな。
――と、俺が思うとファントムは少しムッとした様子で、張り合うように話を続ける。
「待て待て、確かに無理とは言ったがよ、それは何も手掛かりが無い状態での話だ。俺様は感覚だとか意識だとか、そういうのに秀でた力があるんだ。もし、弟の気配がする痕跡――例えば、物や人物を見つければ、見つける確率がアップする!! どうだ?」
つまり、まずは弟の気配がする物を集めて特定すれば弟に会えるんだな。
俺がそう思うとファントムは首を縦に振った気がした。
「確かに有用だ。だが、何故さっきと違って急に協力の姿勢を見せる?」
「その理由は至って単純だ……頼む!! 俺様を外に連れ出して匿ってくれ!!」
お前、一体何やらかしたんだよ。
封印されてるって事は何か悪い事したから封印されてたんだろ。
匿うって言葉使う時点で何かしらの罪犯してる奴だろうし、これじゃ脱獄補助になっちまうぞ……って、普段ならそう言って提案を蹴ってたが、今回は状況が状況だからな……。
「分かった。俺の中に住まわせてやるから、ちゃんと協力しろよ?」
「……!! 恩に着る!!」
こうして、俺とファントムの弟探しの旅が始まった。
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