異世界より
MeはCat
序章 異世界は事件と共に
異世界へ
土砂降りの雨の中、薄暗い街の中を一人で歩いていた。
片手にはビニール袋をぶら下げ、もう片手には黒い傘をさしながら、雨粒が跳ねる音を楽しんでいた。
しかし、不意にポスターの方へ見やると、俺は呆れた様子でため息をつく。
『いざ、異世界へ!! 新たな世界が、君を待ってる!!』
それは、今流行りの
近頃、異世界への行き方が発見されたとか何とかで世間は大盛り上がりを見せているらしい。
「異世界ねぇ……確かに腐った社会より綺麗な別世界を望む気持ちは分からんでも無いが、明らかに胡散臭いんだよな」
異世界……本当にそんな物が存在するかも分からない物を望むより、俺にとっては今日を生き延びる事が何よりも大切な事だ。
俺はその場を後にした。
家の扉を開けると、弟がテレビを眺めていた。
内容は……また、異世界か。
どうやら、弟もそれにお熱らしい。
「ルーク、弁当買って来たぞ」
「おかえり」
そんな素っ気ない返しに少しムッとするが、俺の弟――――ルークの兄貴として今は怒りを抑えておこう。
俺は買って来た弁当を机に置いて、早速食べる事にした。
今回買って来たのはハンバーグ弁当だ。
蓋を開けた途端にタレの匂いが部屋を充満する。
しかし、それでも弟はハンバーグ弁当に手もつけず、ずっとテレビに夢中になっていた。
「はぁ……今何やってるんだ?」
そんな弟に呆れつつ、少しでも気を惹こうとテレビの内容についての話をする。
そして、その話をした途端初めて俺に意識が向いた。
全く、こんな調子じゃ明日には異世界へ行きたいって言って家出しかねんぞ。
「アマテラス社が異世界へのゲートを開くんだってさ!! これは見逃せないよ、お兄ちゃん」
画面を見ると、確かに大掛かりな儀式のような設備が映し出されている。
俺としては大失敗に終わってくれて良いんだがな。
それで弟が諦めてくれれば万々歳だ。
ハンバーグ弁当を持って、俺もソファーに座る。
それと同時に、成金のような服装をした男性が司会として出てきていた。
「さて皆さん、お待たせしました!! これより、異世界ゲートの開門を宣言致します!!」
男性がそう言うと、その背後へと紫色の光が収束していく。
その光はやがて電気のように鋭くなり、渦のような穴が形成されていった。
もしかして、本当に成功させてしまうのか?
そう思った時、その渦のような物が大爆発を引き起こした。
「……え?」
映像はその爆発に巻き込まれて何も見えなくなり、すぐに放送事故用の映像へと切り替わった。
俺は胸を撫で下ろした。
どうやら、無事に大失敗に終わったようだ。
よしよし、これで日常は守られた。
「どうやら、失敗のようだな。そう気を落とすな、異世界なんて行けなくたって――」
俺がその言葉の続きを伝えようとしたその時、下に
「「え?」」
俺達は何が何だか分からないまま、穴に吸い込まれていったのだった……。
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