第14話
この世界の、現在の王様は、少し変わった方らしい。
魔法の収集管理に熱心なのは歴代の王様女王様と同じだが、政争で敗れた旧王家から妃を迎えられたらしい。
民間と言っても、私より遥かに上の方達だけど、から、お妃/后を迎える時代に暮らしていたので、それくらいで「変わり者」だと言われても違和感があるけど。
私はとって重要だったのはその先だった。
王様が妃を迎えられた家は、異世界から人や物を召喚することが出来るらしい!
社交界とつながっていれば、こういった噂も入ってくる。
私は、死んで生まれ変わったのか?それとも、召喚されたのか?
気づいたら、この身体に入っていたので分からない。
ーー大体、私を召喚しても、何の役にも立たないし。
理系じゃないし、おからでホットケーキを作ることも出来ない。
いずれにせよ、疑われないように、立ち居振る舞いにはこれまで以上に気をつけようと思っていたら、国王夫妻に呼び出された。
恐れながらも、エマはものすごい気の入りようで、私を美しく着飾らせてくれたけど、私は憂鬱だった。
しかも、一人で王宮へ向かうのかと思っていたら、アルベールのエスコート付きだった。
謁見の間で、予想していたよりも若く、気さくな感じの国王夫妻にお目にかかった。
お二人とも、権威より、親しみやすさを大切にされているようで、若い貴族でも話しかけやすく、さっぱりしていた。
お気に入りの道化や音楽家を連れて歩くこともなく、愛人もいないようだった。
王妃様は長い髪を後ろで編んでいらしたけど、国王陛下は断髪で、かつらをかぶることもないようだった。
この世界では、特に、国王の色というのは決まっておらず、男性は適度に装飾のある上下を、女性は華美になりすぎないドレスを着ていた。
華美な格好をせずとも、気品で国王だと分かるのだろう。
生地の上等さや品の良さを除けば、国王陛下はすぐに臣下に埋もれてしまえるようなシンプルな格好を好んでされているようだった。
時代劇のように、「苦しゅうない。面を上げよ」と言われるのを待つこともなく、 私はゆっくりと顔を上げた。
国王夫妻は笑顔で私を見ていた。
アリスが馬車で事故にあったことは国王夫妻の耳にも届いていたらしく、お妃様は、アルベールに、
「良かったわね」
と仰った。
何が良かったのか分からないまま、胸に手を当てて頭を下げるアルベールを私は見つめていた。
「すっかり元気になったようで」
「恐れ入ります」
「私も尽力した甲斐がありました」
漫画やアニメのではなく、有名なルブランの肖像画のマリー・アントワネットのようなお妃様は、感慨深げに微笑むと、
「陛下」
王様に声をかけた。
「うむ」
王様も満足げに私を見ていたけど、私は何のことやらさっぱり分からず、一人取り残されたような状態になっていた。
「何か困っていることはない?」
と王妃様は気さくに声をかけて下さったけど、何のことやらさっぱりだった。
「アルベールとエリザベスが血相を変えて飛び込んできた時にはどうなることかと思ったけど」
扇で口元を隠しながら王妃様は言った。
「術が上手く行ったようで良かったではないか」
「ええ」
アルベールは、私の隣で跪いたまま。
そして、私は気づいてしまった。
カーテンの向かうに、リズ様がいることに。
彼らの話はこうだった。
アリスが事故にあったあの日。
どうやら容体があまりよくないらしいと聞いたアルベールとリズ様は、異世界から人や動物、物などを召喚できるという王妃様を頼って王宮へと駆け込んだ。
「本当に、一時はどうなることかと思いましたわ」
王妃様は扇をパタパタさせて言った。
「あの時、ちょうど彷徨っていた魂がいて良かった」
それは歩きスマホで横断歩道を渡って青信号で跳ねられた私のことで、私は内心、複雑な気がしていた。
「……つまり、アリスの命をこの世につなぎ止めようと、車に跳ねられたばかりの私の魂をこの身体に入れたと?」
「ええ」
王妃様は悪びれる様子もなく答えた。
「だって」
だって?
「あの時はああするより他なかったんですもの」
「……確かに、アリスはこの身体の中で眠っているようですけど」
王妃様は、扇を口元に当てて、私に続きを促した。
「アリスを起こすには、どうしたらいいんですか?」
王妃様は微笑んで、
「アリスが起きようと思うことをすればいい」
と言った。
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