第13話
この世界では本当に魔法を自由に使えないのか?
部屋に魔道書があったので、仕事が休みの日に試していたら、面白いことが分かった。
一度習得した魔法は、忘れない限り、詠唱なし、杖なしで使える。
といっても、部屋を明るくする魔法など日常レベルの魔法だが……。
しかも、この魔法、森でヒカリダケを取ってこれば一ヶ月はもつので、必要なのかどうかも分からない。
現在、ヒカリダケの栽培管理は、王立魔法協会が担っており、乱獲でなくなる恐れもなく、貴族だけでなく、庶民にまで行き渡っている。
あれから、王立図書館の勤務日がリズ様と一緒になることもなく、図書館職員はみんな魔法を使えるので、たまに本を書架に戻す魔法を使ったりして、重たい本を何冊も抱えて、書架とカウンターを行き来する手間を減らしたり、本をクリーニングしたりして、私はまあまあ平和に暮らしていた。
アルベールは、アリスのことは大切に思っているらしく、結構まめに王立図書館やリドル家へ顔を出したりしていた。
勤務の合間に、社交界のパーティーや行事があり、私が貴族の集まりにも慣れた頃、王立図書館の勤務が終わり、不意に眩暈がして、馬車に寄りかかったところ、リズ様付きのメイドがうちの馬車に何かしている映像が見えた。
それは、私、アリス・リドルが馬車の事故にあった日だった。
衝撃で言葉を失っていると、
「お嬢様、どうかなさいましたか?顔色が優れませんが」
エマがそっと寄り添ってくれた。
「エマ」
……言えない。
今見たものが本当だという保証はない。
「ありがとう。何でもない」
私は弱々しく微笑んで、馬車へと乗り込んだ。
あれは一体何だったんだろう?
過去の映像だったみたいだけど。
アリスにあんなものが見えると思わなかった。
リズ様とはあれから会っていないけど、あの、馬車の車両に触れていた年若い女性は、勤務中にも度々見かけたリズ様付きのメイドだった。
いわば、うちのエマみたいなもんだ。
彼女とは話したことがなかったけど、いつも一歩引いて主人を見守る優秀さが感じられた。
エマもそうだけど、彼女にも、主人に寄り添いつつ、他の方達の邪魔にならないところがあった。
ーーその彼女が何故、うちの馬車に?
その日は一日、そのことが頭について離れなかった。
数日後、その謎はあっさり解けた。
始業前の朝礼で、立派な緑のローブを着た図書館長が言った。
中性的でも優男でもないけど、どこか性別を感じさせない彼は、艶のない金縁の眼鏡をかけていて、髪はサラサラのおかっぱだった。
もう若くはないんだろうけど、年老いてもなく、どこか年齢不詳だった。
正確に喋ろうとするからだろうか?よく分からないけど、彼には、現代日本で見たような、言葉を扱う人間特有の固さがなかった。
「皆さん、この図書館でも、馬車を狙った事件が起こる前に、先日、リズ様付きのメイドに馬車を点検して頂きました。万が一、事故が起きても大丈夫なように、魔法がかけてあります」
と館長は言ったのだが、全員の視線は自然と私に向いた。
「えーー、アリス様の事故もありましたが、現在は、元気で勤務をこなしておられます」
館長の声が次第に遠のいて行く。
リズ様付きのメイドは、どこか品の良さを感じさせた。
彼女は、没落貴族出身だった。
この世界では、庶民も魔法を使えないわけではないが、その数は貴族より少なかった。
その理由は十分研究されていないので断言できないが、やはり、現代日本と同じように、階級による能力の固定や機会の不平等が問題にされていた。
リズ様のお祖父様という人は、自分が成金だということを気にしていて、自分の能力が足りない分を、優秀な人材を集めることで埋めようとしていたらしい。
誰も言わなかったが、それなら何故、アリスの事故は起きたのだろう?
今になって、何故、そのようなアナウンスをする?
自然と、リズ様と目があった。
けど、彼女は、視線を逸らしただけだった。
この世界でも、結婚は女性の一生を左右する重大イベントのようだったが、アルベールはアリスの婚約者であり、既婚貴族の自由恋愛は認められいる。
そんな中で、リズ様がアリスに危害を加えるメリットはあるだろうか?
それぞれが各持ち場へと戻って行く。
私もカウンター内へと戻りながら、リズ様付きのメイド、メグに視線を向けた。
彼女は前を向いて、リズ様に付き従っていた。
地味だけど、仕立てのいい服を着ている。
主人の代わりに手を汚す従者やメイドもいることはいるけど……。
この件は、リズ様にとってメリットがなかった。
リズ様が、政治家と癒着していたカルト教団の長と関わりがあるなんて聞いたこともなかったし。
それは、彼女の一族も同じだった。
現代日本でも、親が宗教にはまって、人生を狂わされた子ども達が問題になっていたことがあったけど。
ーーあれも、政治家が射殺されるまで問題にされなかったんだった。
アリスの事故には何が隠されているんだろう?
そこに、リズ様や、アルベールがどう絡んでくるのか?
ミステリー小説の謎解きがさっぱり分からなかった私には、やはり分からなかった。
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