第12話

 アルベールとの会話をどうやってやり過ごしたか分からないまま、馬車はアリスの屋敷へと着き、私はアルベールにエスコートされて馬車を降りた。

 傍に控えていたエマが、

「アルベール様、お嬢様は支度がありますので、客人用のお部屋でお待ち頂けますか?」

 と、主人の疲労を見てとり、そっとアルベールを促した。

 アルベールもエマには頭が上がらないのだろう。

「分かった」

 というと、エマの後ろに控えていた自分の従者と屋敷へ入って行った。


 思わず、

「エマ、ありがとう。助かった」

 と言いかけて、私は口をつぐんだ。

 エマは全部お見通しのようで苦笑していた。

「さあ、お嬢様も」

 お疲れでしょう?と言われて、エマに導かれるように、私は屋敷へと入った。


 その日の夕食は、アルベールを囲んで賑やかなものとなった。

 先にアルベールの方から連絡があったのか、それとも両親がどこからか嗅ぎつけたのか知らないけれど、食事もいつもより豪華だった。

 それも余所余所しさを感じさせない豪華さだった。


 疲れたーー。

 夕食の後も、両親につかまっているアルベールを置き去りにして、私は部屋へと戻った。

 アリスは銀の髪とロイヤルブルーサファイアの瞳を際立たせるような、シンプルで、派手さはないけど、センスの良さを感じさせるドレスを好んで着るようだった。

 暖色系を好むリズ様に対して、彼女のドレスは寒色系だった。

 簡素な部屋着に着替えて、エマに髪をとかして貰いながら、私は、今日あったことを思い出していた。

 リズ様のこと、この世界の魔法について、そして、突然のアリスの涙、アルベールのこと。

 我ながら、情緒が追いついてなくて、あれこれ忙しい。

 アルベールをあのまま置いて来てよかったのか分からないけど、とにかく私は疲れていた。

「大丈夫ですよ」

 私の思考を読んだかのようにエマの声がした。

「エマ」

「アルベール様なら」

 エマは笑いをこらえて言った。

 疲れないんだろうか?と私はふと思ったけど、エマのことだ。

 きっと、

「仕事ですから」

 と言って微笑むだろうと思ったら、気持ちがすっと楽になった。


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