第11話
どこまで本当か分からないけど、親や家に結婚相手を決められていた時代、決められた相手と上手く行けばそれにこしたことはないのに、それは恥で、気まずい思いをしていたと書いてあるのをネットか何かで読んだことがあったけど、アルベールとアリスはどうだったんだろう?
否、二人の関係について、アリスは、どう思ってたんだろう?
私には分からないけど、アリスはまだこの身体の中にいるようだった。
彼女は何らかの理由で、心に深い傷を受け、今は私に意識をあずけて眠っているけど。
予想できる最悪の事態を避けられたことに私がほっとしていると、アルベールが馬車に乗り込んで来た。
あれから、アリスはまだ体調が安定しないということで早退が決まったのだが、婚約者のアルベールがずっと傍についており、幾ら、私が、
「エマがいるので大丈夫です」
と言っても、彼は聞かなかった。
光の加減で青にも見える藍色の髪は、私にここは異世界だということを強調した。
エマは笑って、私達の様子を見るだけで、傍に控えていた。
馬車の窓から王立図書館を見ると、三階の窓から、リズ様がこちらを見下ろしていた。
貴族令嬢に生まれても身分を保持するには努力が求められるけど、リズ様は自分よりも長い間貴族であるというだけで、大きな顔をしてきた貴族以上に、貴族的であろうと努力されてきた方。
それは、彼女だけでなく、彼女の一族にも言えることで、彼女の名は私たち貴族が一般的に使うフラン系の名前ではなく、このイリス系の名前だった。
「……リズ嬢とは?」
馬車が王立図書館を出てしばらく経った頃、向かいに座ったアルベールが尋ねてきた。
ーーそれはこっちが聞きたいことだっつーーの!
私は、アリスでいる時は、決して使えない砕けた口調で、心の中でため息を吐いた。
「仲良くして頂いています」
どうにも、私は、「~~ですわ」というのが苦手で、友達付き合いを維持するために、言葉遣いに気をつけ、流行りもののリサーチをよくしていた現代日本で知り合いだった中学の同級生を思い出しながら答えていた。
「そう」
「ええ」
アルベールはほっとしたような、まだ心に何かが引っかかっているようなため息を軽く吐いた。
「君は」
「何ですか?」
アルベールは少し間を置いてから、言葉を探すように、ゆっくりと言った。
「馬車の事故から目覚めてから、ずいぶん表情豊かになった」
「!?」
私は、内心で、「しまった!」と思っていた。
私には二人の関係がいまいちよく分からないので、婚約者にどれくらい本音を出していいのか迷っていたのだが、現代日本で得た知識を参考に、貴族令嬢があまり表情豊かで、喋りすぎるのもなあ……と思って、気をつけていたつもりだった。
アルベールが私の変化を見抜いたのは、貴族が受ける教育のせいか、それともアリスとの関係によるものか分からなくて、私はますます混乱した。
「……大丈夫か?」
と、私の顔を覗き込むように、微かに歪んだ整った顔が近づいてくる。
ーーこんなんじゃ好きになっちゃうだろう!
アリスや、リズ様は知らないが、私はあまり男性に免疫がなかった。
高校の出前授業で、産む身体について授業を受ける世代ではなく、「男はみんな狼だから気をつけなあかん」と言われて育った古い世代だった。
その言葉が使われなくなった後も、有名なだんじり祭が行われる地域では、年頃の娘を持つお母さん達が、「一夏経ったらお腹がぽっこりしているかも知れない」と目を光らせていた。
婚約者を無碍に扱うわけにも行かず、私は心の中で百面相を繰り広げていた。
アリスの記憶を引っ張り出してみると、アリスとアルベールは幼なじみでもあるようだった。
そのせいか、何か距離感バグってるんですけど……。
男女が共に過ごせる幼年期を終え、婚約者として再会するまで別々の期間を過ごしたからかも知れないけど。
そういった経験のない私には、二人の関係はどこか甘酸っぱいものに感じられた。
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