第8話

 私のような令嬢は毎日働かなくていいけど、「若くて綺麗で嫁入り前の令嬢には貸し出し業務をして貰うことになっているから」と言われて、簡単に区切られたカウンターの中に座って、貴族の子息や令嬢と社交をしなければならないのは苦痛だった。

何というか、せっかく本に囲まれていても落ち着かない。

 貸し出し期限を忘れないように伝えなければならないし、ちゃんと主人に代わって返却に来た従者やメイドの相手もしなければならない。

 要するに、貴族として、人脈作りの場であり、社交スキルの見せ場でもあるのだが、私は現代日本の小学校に通っていた頃から、徒歩での通学中も本を読んでいたかったし、休み時間は、「本より、友達と遊びなさい」と親に言われたように、読書を我慢してまでクラスメート達と遊びたくなかったし、先生達に校舎に入れないように見張られたくなかった。

 ーー本好き=陰キャではないけど。

 私は昔から、人付き合いが苦手だった。

 八尾の官舎にいた頃は、母が気づかないうちに、お隣に紛れ込んだりしていたらしいのに。

 小学校で村社会に放り込まれたせいか、すっかり人の気持ちが分からなくなって、混乱していた。

 今でも存在するのか分からないけど、村社会の現実やルールは独特なのだ。

 美形じゃなくても、必ず噂される有名な一族がおり、幼稚園でもう子どもの社会も出来上がっているので、私立の幼稚園から公立の小学校に入学しただけで居場所がない。

 うちの親はのほほんとしている方だけど、そんなこと、入学するまで私も知らなかった。

「お嬢様」

 物思いにふけっていたら、エマに何回か呼ばれていた。

「……何?」

 慣れない……。

 前の顔と違ってまつげ美容液を使用しなくても睫は長いし、長くなった睫毛が目に入って痛いということもなさそうだけど。

 どちらかというと一重の寂しい顔だったので、いきなり、ベルばらのオスカルやマリー・アントワネットになったような違和感がある。

「そろそろお休みになられませんと」

「ああ、そうね」

 大きな鏡台の前で、ぼーっとしてしまっていた私は、エマに導かれるまま、寝室へと入り、これまた大きな天蓋付きのベッドに横になった。

 ーーアリスの趣味だろうか、天蓋付きベッドの中には青空と、天使に囲まれた聖母の姿が描かれていた。


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