第4話

 私、アリス・リドルが働く場所は、王立図書館であり、魔法を管理する場所でもあった。

 職員は、主に、身元のはっきりした上流貴族の子息令嬢から選ばれ、更に、職務ごとに色が違う石を持たされ、現代日本で言えばタイムカードみたいなものだろうか?それを石版にかざすことで、出勤時間や退勤時間を管理されていた。

 私の仕事は、主に、貸し出し業務や、図書館資料の管理などだが、魔法を扱うこともあり、馬車で事故にあった時には、事件も疑われた。

 トイレを綺麗にする魔法など、平和な民間魔法ならまだいいけど、魔法の中には人を殺せるものもあり、取り扱いには注意が求められていた。

 昨年の暮れ、私が事故にあった日は、人手が足りなくて、嫁入り前の、有力貴族の娘は免除されている、取り扱いに注意を要する魔法の管理、貸し出し業務にも駆り出されていた。

 今となっては、はっきり思い出せないけど、あれは何の魔法だったんだろう?

 確か、年末に、広場で死刑が行われることになり、執行人に、死刑を執行する魔法が貸し出されることになっていた。

 仕事とはいえ、執行人は、それが魔法のせいである限り、「自分は人を殺めたのだ……」と思う必要もなかったし、大臣が国王の許可を取り死刑が決まると、まず、 この王立図書館に連絡が入り、魔法の貸し出しが決まるので、何の準備もしなくて良かった。

 貸し出す方は少し気が引けたけど、魔法はランダムに貸し出されるので、死刑執行に何が使われるかなんて知りようがなかったし、書類のやり取りだけで済んだ。

 ある大臣がカルト教団から、長年、資金を得ていた問題で、カルト教団に巨額の寄付をしていたある貴族女性の息子が大臣を暗殺し、すぐに捕まった息子の裁判が行われ、死刑執行が決まった。

 更に、ここに有力貴族が絡んでいたらしく、議会で、死刑執行を取りやめるように求める声が上がった。

 一刻も早く、大臣を暗殺した青年を殺してしまいたい層と、生かしておきたい層の思惑が絡み合い、魔法の貸し出し業務を行う図書館の方にも危害が及びそうになったので、誰も魔法の貸し出しをやりたがらなかった。

 こうなった時に、この国では、有利に働いたはずの家柄の良さがマイナスになってくる。

 「高貴なる者の義務」というやつで、私、アリス・リドルの家と、現国王が縁戚関係にあったせいで、本来、嫁入り前の、有力貴族の娘は免除されている、取り扱いに注意を要する魔法の管理、貸し出し業務をさせられることになったのだ。

 あの日は、その大役を仰せつかった日で、 私は家路を急いでいた。

 ーー私が事故にあったのは、単に馬車の事故が多いことと、冬で帰り道が暗かったせいだと思うのだが、事件性が疑われ、ある名門出身の大臣を暗殺した貴族の息子の死刑が延期になった。

 議会では、「我々は、暴力に屈しない!」という声もあったそうだが、「これ以上、王立図書館の職員を危険にさらすわけにはいかない」という声もあり、死刑を執行する魔法の貸し出しは延期になった。

 これには、影で、あとでエマに聞いたところによると、私の次に魔法の貸し出しを行うことになっていた、ある有力な大臣の娘の関係者が動いたという噂もあるようだった。

 私は、事故で、しばらく、ベッドでの生活を余儀なくされ、前世の記憶が混じるようになっていた。




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