第3話
この世界には、車はないけど、馬車がある。
王立図書館の前で待っていた私付きのメイド、エマと合流すると、私は、迎えに来ていた馬車に乗った。
王立図書館は知の殿堂といった感じで建てられており、基本はファンタジーに出てくるヨーロッパ風の古い建物みたいなんだけど、ちょっとパルテノン神殿を思わせるようなところもあって興味深かった。
馬車に乗る時、一瞬、緊張の走った私を気づかって、エマが声をかけてきた。
「……お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ」
エマによれば、今冬の仕事帰りの夕方、私は馬車の事故にあって、しばらくベッドで過ごしていたそうだ。
「本当に、お元気になられて良かったですよ」
その時のことを思い出したのか、彼女は胸をなで下ろすように言った。
「お嬢様の婚約者、バートン家のアルベール様も来られて、一時は本当にどうなることかと思いましたからね……」
現代日本なら、「……心配かけて、ごめんなさい」と謝るところだが、身分社会の貴族である私は、使用人である彼女に、どう答えていいか分からず、黙っていた。
エマは多分、いい人なのだろう。
長い栗色の髪を後ろで緩やかに束ねたエマは、人が良さそうな顔立ちをしていた。
身分の違いをおかしいとも思わず、私に忠実に仕えてくれている。
こう言ってしまうと語弊があるかも知れないが、私、アリス・リドルにとって、年の近い友人のような存在でもあるようだった。
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