第2話

 私も、一度くらい、小さな鞄一つで出かけたかったな。

 デートで、男の人に荷物を持って貰いたかった。

 あ、でも、子どもの頃は、小さな赤いポシェットで出かけてたんだっけ?

 子どもアルバムにある、父が遊園地で撮った写真を思い出しながら、私が物思いに耽っていると、

「じゃあ、これ、ここに置いとくんで、片付けて下さい」

 という声が聞こえた。

 ……え?

 そこは病院のベッドでも、アスファルトの上でもなく、飴色の光沢を放つ机の前だった。

「あ、はい」

 よく分からないまま、私は返事をして、目の前に積まれた本を見た。

 明らかに、現代の薄くて軽い本ではなく、立派な表紙がついた重そうな本達だった。

 私は、椅子から立って、本を落とさないように気合を入れて抱えると、書架へと向かった。

 落ち着いた雰囲気ではあるけど、凝った作りの広い部屋にある立派な本棚に、本を一冊ずつ戻していく。

 長いドレスの袖が邪魔で、裾を踏まないように移動するのも面倒だった。

 どうやら、私は、ヨーロッパの女性貴族が着ていたようなドレスを着ており、司書なんてしたこともないけど、本を本棚に戻すような仕事をしているらしい。

 私が最後に読んでいた本は、大学図書館の司書になるはずだった主人公が、大地震で亡くなり、貧しくて、病弱な幼い少女に転生した話だったけど、あの続き、どうなったんだっけ?

 ないと分かっているけど、思わず、私は、本を探してしまった。

 ーー続きが気になる。

 ないと分かっていると、尚更続きが気になるのかも知れないけど、私は、言われるがまま簡単な書類仕事を済まし、貸し出し業務などをして、一日を終えた。

 ここでも、私は、本の虫だったらしく、

「あれ、今日は、何も読んでないなんて珍しいね」

 と、常連らしい図書館の利用者に言われたけど、仕事をしながらでは本に集中できないし、「死ぬ直前に読んでいたらしい本の続きが気になります」とは言えない……。

 就業時間になり、私は、見様見真似で、首から下げた青い石を石版にかざすと、部屋を出た。




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