第2章 海のダンジョン
8話
数時間前
「なんだここは?」
勇者と戦い、時空の歪みに吸い込まれた魔王バルケリオスは、見たことのない場所に動揺していた。
こんな世界はどの本でも見たことがない。巨大な建物に、謎の四角い物体が馬車よりも速く走り、夜だというのに昼間のように明るい。何だここは?
「バルケリオス様! ご無事ですか⁉︎」
忠実な部下のランベルトが魔王の安否を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。しかし動揺しているのは彼も同じだった。この世界はあまりにも彼らの世界とはかけ離れている。
魔王とランベルトがあたりを見渡していると、制服を着てライトを手に持っている男(警察官)が2人に声をかけてきた。
「##$$$$&”!”(’”””&」
「何だそれはどこの言葉だ? 少し待て」
2人は解読魔法を唱えると、もう一度警察の言葉に耳を傾けた。
「言葉はわかりますか? こんな真夜中に何をしているのですか?」
話の内容が分かったランベルトは、ギロリと警官を睨みつけて前に出る。
「何をしているだと? こちらにおられるのは魔王バルケリオス様だぞ! 何をしていようとお前には関係ないだろ!」
警察は困ったような表情で唸ると、丁寧な口調で話を進めた。
「えっと……こんな真夜中にそんなマントとかツノとかつけた人がいたら不審に思われるでしょ? 一度署に来てくれるかな?」
「お前、魔王様を侮辱するのか? 今すぐその首を跳ね飛ばしてやろうか⁉︎」
ますますヒートアップしていくランベルトに、魔王は「やれやれ」と言いながら首を振ると、警察官の目をジィーと見つめた。
「うちの者がすまないな……少し話を聞かせてくれないか?」
魔王の目が赤く染まり、警察官の瞳から光が消える。
「この世界で誰が一番偉いんだ? この街は何というんだ? どうしてここまで発展しているんだ?」
「それはですね……」
警察官は魔王の催眠術にハマると、知っている事を全て話し始めた。
「なるほど、大体この世界については分かった。他に何か面白い話はないか?」
「最近はダンジョン配信というものが流行っています。動画配信者がダンジョンに挑みその様子を撮影するのです。それはもう大流行していて多くの人が視聴しています」
「ほぉ~ なるほど、だったらダンジョン配信をして最も有名になればこの世界を征服する事もできるのか?」
魔王の質問に警察官はしばらく考える素振りを見せると、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「私が思うにこの世界で最も強いのは影響力を持つ人です。配信者として有名になれば可能だと思います」
魔王は警察官の話を聞いて満足そうに頷くと、邪悪な笑みを浮かべた。そして力強く宣言をした。
「ランベルト、我はこの世界を征服する! この高度に発展した世界を我の物にする。すぐに準備を整えてダンジョン配信を始め、この世界で一番有名になるぞ!」
「仰せのままに魔王様!」
こうして2人のダンジョン配信が始まり、魔王の奇妙な見た目と圧倒的な強さが話題となり、瞬く間に人気者になっていった。
* * *
「魔王バルケリオス……どうしてこんなところに?」
朝食を食べていたセリナは、画面を見つめたまま絞り出すようにその名を呟いた。
「えっと、知ってる人?」
葵もコーヒーを飲んでトーストを流し込むと、スマホの画面を見ながら尋ねた。
「私が必死に封印をしようとした魔王です。ですがどうしてこの世界に? まさか彼らも時空の歪みに巻き込まれたの?」
「とりあえず動画を見てみない? 何か分かるかもしれないよ」
葵とセリナは顔を見合わせてこっくりと頷くと、恐る恐る再生ボタンを押してみた。
『やぁ、諸君ども! 魔王のバルケリオスだ!』
場所はダンジョンの地下深くらしく、魔物のうめき声が画面越しに聞こえてくる。普通のダンジョン配信者なら周りを警戒して慎重になる場面だけど、魔王は違った。
『今日は我の強さを見せてやろう!』
画面の中では魔王が自信に満ちた笑みを浮かべていた。その後ろには無数の魔物たちが群れをなしている。暗闇の中に怪しい光が蠢いているのが不気味だった。
「ねぇ、大丈夫かな?」
葵は心配そうにしていたが、セリナは苦笑いを浮かべて首を振った。
「この程度の魔物では相手になりません。ほら、よく見ていてください」
セリナの言う通り、魔王は全く動揺しないで片手を上げると、邪悪な闇のオーラを放った。その闇は魔物たちに直撃して消滅させていく。
「まだまだ、もっといいものを見せてやろう!」
魔王の右手がバチバチと雷を帯びて強烈な稲妻が降り注いだ。画面全体が白く染まる。その直後、魔物たちが次々と崩れ落ちる様子が映し出された。
「す、すごい……」
圧倒的な力の差に葵は思わず声を漏らした。
「葵さん、魔王はまだ全然本気を出していませんよ。こんなの序の口です」
「嘘でしょ?」
改めて葵はセリナがいかに恐ろしい魔物と戦っているかを知った。自分だったら間違いなく逃げ出す。それでも勇敢に戦うセリナは本物の勇者だと思う。
「さて、これで証明されたな。我こそが最強の存在だ!」
魔王は魔物の群れを一掃し、悠然と立ち尽くしていた。画面の向こうの彼は、まるで王様のような威厳に満ちている。
「では、次は海のダンジョンとやらに行こうと思う。ではまた!」
動画はここで終わり、コメント欄の方を見ると、何百件ものコメントがついていた。
勇者太郎 2時間前
『魔王強すぎ! まじでこの人? 覇権取りそう!」
ドラゴンマスター 1時間前
『あのクラスの魔物を一掃とかヤバすぎ、まじで魔王じゃん!』
ダンジョン探索家 30分前
『こんな力があったらダンジョン攻略も楽だろうね」
闇のプリンス 45分前
『バルケリオスの魔法、かっこよすぎ! 闇魔法とか憧れる!』
マジックアニマル 15分前
『バルケリオス凄すぎ! もっと他のダンジョン攻略も見たい!』
魔王信者 3時間前
『魔王様、僕をしもべにして下さい!』
レジェンドハンター 20分前
「これはダンジョン配信の革命が起きるぞ!」
魔王最強 50秒前
『バルケリオスのファンになっちゃった! もっと力を見せてほしい!』
魔王大好き 30秒前
『この人なら世界征服されてもいいかも!』
スリル大好き 2時間前
『凄いワクワクする! 魔王ってすごいんだな!』
クールウィンザー 1時間前
『一撃で倒すとか、爽快感がたまらない!』
ダンジョン廃人者 5分前
『魔物の倒し方が華麗すぎ! プロって感じだ!』
精霊剣士 3時間前
『最高! もっと配信を増やしてほしい! もっと見たいです』
コメント欄は大いに盛り上がり、みんな次の配信を楽しみにしている。葵とセリナはしばらくの間、言葉を失っていたが、やがて顔を見合わせて力強く頷いた。
「これは私たちも負けていられないね」
「はい! 魔王の好きにはさせません!」
葵とセリナは朝食を済ませると、魔王が次の配信場所に選んだ海のダンジョンに向かった。
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