7話
翌朝、葵はいつも通り目を覚ますと、軽く伸びをした。隣ではセリナがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「トーストは……まだ残っていたよね?」
葵はキッチンに向かうと簡単な朝食を作り始めた。トーストにバターを塗り、黄金色になるまでオーブンで焼きながら、新鮮な野菜を刻んだ。そして淹れたてのコーヒーを注いで……
「いい匂い……」
ちょうど朝食の準備ができて、呼びに行こうとしたら、とろ~んとした目を擦りながらセリナが起きてきた。どうやら匂いに釣られたらしい。
「おはようセリナちゃん。朝食が出来たよ」
「ありがとうございます」
2人はテーブルに着くと、手を合わせて「頂きます」といい、早速セリナがトーストにかぶりついた。
「このパン、外はサクサクで、中はふわふわしていてます!」
「ふふっ、本当にセリナちゃんは何でも美味しそうに食べるね」
「だってどれも本当に美味しくて……普段は非常食ばかり食べていたんです」
「そっか、大変だったね。よかったら、このハチミツもつけてみて」
葵は棚から小さな瓶を取り出して蓋を開けた。セリナは不思議そうに首を傾げて中を覗き込む。ハチミツは瓶の中でキラキラと輝いていた。
「これがハチミツ……?」
セリナは鼻を近づけて香りを嗅ぐと、うっとりとした表情で目を細めた。
「なんだかとても甘い香りがします!」
「これをパンに塗って食べると美味しいよ!」
葵はパンを手に取ると、スプーンを使って薄く塗り広げた。セリナもその動作をじっと見つめて、慎重に自分のパンに塗って一口頬ばると、目を見開いて勢いよく頬張る。
「これは……美味しいです!」
「気に入ってくれてよかった! コーヒーも飲んでみて」
セリナは両手でそっとコップを持ち上げると、一口飲んで深く息をはいた。
「美味しい……少し苦いですが、甘いパンとよく合います。それに香りもいいですね!」
「そうでしょ? やっぱり甘い食べ物とコーヒーは格別だよね」
葵もパンを頬張りながらコーヒーを飲んで朝食を味わうと、スマホを取り出して某動画配信アプリを開いた。
「それと、見てみて、昨日の動画なんだけどね、なんと10万回再生されたんだよ!」
「10万回再生? それは凄いことなのですか?」
「めちゃくちゃすごいよ! こんなに見られたのは初めてだよ!」
葵は興奮気味に声を張りながら語ると、再生数を見つめてニターと頬を緩めた。良い時でも1万再生がやっとの事を思うと、驚異的な数なのが分かる。
「お役に立てたようでよかったです。ところで、このおすすめの動画というのはなんですか?」
「あ~ これね……一応、自分におすすめの動画を教えてくれるの。的外れの事もあるけどね」
「そうですか……あれ? ちょっと待ってください!」
セリナはスマホを凝視すると、ごくりと唾を飲み込んだ。手が震えてトーストが皿に落ちたが、気にせずに画面を見続けている。
不思議に思った葵もスマホを覗くと、魔王チャンネルという配信者が写っていた。その男性は黒いマントを肩にかけて頭にはツノを乗せている。隣には部下らしき男もいた。
「魔王チャンネル? いかにも怪しげな名前だね」
葵は胡散臭そうな目で見てため息をつくが、セリナは画面を見つめたまま、絞り出すようにその名を呟いた。
「魔王バルケリオス……どうしてこんなところに?」
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