6話
「さてと、そろそろお風呂が湧いたから一緒に入ろっか。シャンプーとかの使い方を教えてあげるね」
「シャンプー? なんですかそれ?」
「口で説明するよりも直接見た方が早いから、おいで」
葵はセリナをバスルームに案内すると、衣服を脱いで洗濯機の中に詰め込んだ。セリナも少し恥ずかしそうに服を脱ぎ始める。
「あの、この四角い箱は何ですか?」
「洗濯機だよ。この中で服を洗ってくれるの」
「えっ、自分で手洗いしなくてもいいのですか?」
「うん、勝手にやってくれるんだよ」
「便利ですね!」
葵にとっては当たり前のことでも、異世界からきたセリナにとっては画期的に見えるようだ。
バスルームは狭いながらも清潔で、シンプルなデザインをしている。早速葵は、セリナの銀色に輝く髪を濡らすと、手にシャンプーを馴染ませて洗い始めた。
「凄い、こんなにも泡立つのですね!」
「セリナちゃん、痛くはない?」
「大丈夫です。すごく気持ちいいです」
セリナはうっとりとした表情で目を細めると、葵にされるがままに全身を洗われた。戦いの汚れが綺麗に落とされて、陶器のようなすべすべな肌が現れる。
「さてと、入ろっか」
浴槽は2人で入っても十分な広さがあった。初めてのお風呂にセリナは驚きながらもゆっくりと浸かった。
「あったかいです。お風呂が自宅にあって毎日入れるなんて幸せですね」
「ふふっ、気に入ってくれてよかった」
セリナは気持ちよさそうに目を瞑ると肩まで浸かった。長い髪がお湯に濡れて、葵にはない豊満な二つの果実がぷか~っと浮いていた。
「どうしたのですか葵さん?」
視線に気づいたセリナがキョトンと首を傾げて葵を見つめる。
「いや、なんでもないよ……」
葵は小さなため息をつくと、少しだけ悔しそうな口調で呟いた。
* * *
「ふぅ~ 気持ちよかったです」
入浴を終えて、葵はセリナを自分のベットに連れていくと、ドライヤーと櫛を取り出した。
「セリナちゃん、髪が長いから乾かすの大変でしょ?」
「そうですね……正直めんどくさいです」
「分かる~ でもドライヤーを使えば楽だよ」
葵がドライヤーのスイッチを押すと、勢いよく熱風が吹き出した。そしてセリナの髪を丁寧に手で流しながら乾かしていく。
「凄いです、それは風の魔法ですか?」
「魔法……確かにそう見えるね(笑)」
ブラシを使って仕上げをすると、セリナの銀色の髪がより一層の輝きを増した。なんだか勇者じゃなくてお姫様のように見える。あまりの美しさに葵はドキッとしながらセリナを見つめた。
「ありがとうございました。こんなにサラサラになったのは初めてです!」
セリナは自分の髪を見つめると、うっとりとした表情で撫でる。モンスターと闘っていた時は超人に見えたけど、髪を撫でる仕草は可愛らしい普通の女の子だった。
「さてと、今日は色々とあって疲れたでしょ? 私のベッドを使っていいから休んでいて」
「えっ、葵さんはどうするのですか?」
「私は別に……床で寝るからいいよ」
「そう言うわけにはいきません! 葵さんが使って下さい!」
どっちがベットを使うのか、軽く口論をした結果、2人で使うことにした。ただしシングルベッドのため、自然と2人の距離が縮まって肌が触れ合う。
「今日は大変だったね……」
葵は今日の出来事を思い出しながらぽつりと呟いた。もしあのままセリナに出会えなかったら、今もダンジョンの中で1人彷徨っていたかもしれない。そう思うと恐怖で体が震える。
「私も葵さんに出会えなかったら、この世界で路頭に迷っていたと思います」
セリナもセリナで葵と出会えた事に感謝をしていた。たとえ勇者であっても寝るところは必要だし、食事だって摂らないといけない。
「私、セリナちゃんにあっていなかったら、あのままダンジョンの奥で死んでいたかもしれない……」
「私だって、葵さんがいなかったらこの世界のことが何も分からなくて苦労したと思います」
2人は目を見つめると、クスッと微笑んだ。どちらが先に距離を詰めたかは分からないが、葵とセリナは体を寄せると、ギュッと抱きしめあった。シャンプーと石鹸のいい香りに包まれて心地よい時間が流れる。
「でもさぁ……私、セリナちゃんの足を引っ張っていないかな? 今日戦ったボスだってセリナちゃんがいなかったらきっと負けていたし……」
葵は不安げな声で呟く。きっとこれからダンジョン配信を2人で始めたら、もっとたくさんの敵と戦う事になる。その時にセリナの足を引っ張るんじゃないか? いっそ1人の方が戦いやすいんじゃないか? そんな不安が葵の肩に重くのしかかる。
「葵さん……例えば強敵と戦う時に一番大切な事はなんだと思いますか?」
「えっ、なんだろう? 強さとか?」
「確かにそれも重要ですが、大切なのは助け合う事です。私よりも戦士の方が強いですし、私よりも大賢者の方が冷静ですよ」
「そ、そうなの? 信じられない」
強くて可愛くて完璧だと思っていたけど、そうではないらしい……セリナはそっと葵の頭を撫でると、優しい微笑みを浮かべた。
「だから苦手なことは任せて、自分は自分の得意なことで貢献すればいいんです。私たちはもう仲間だから、助け合いましょう!」
「セリナちゃん……」
葵の瞳が潤み、彼女の胸に温かい気持ちが広がった。セリナの言葉は心の奥まで届き、肩にのしかかっていた不安を取り払う。葵はセリナの胸に顔を埋めると、体を震わせながら声を絞り出した。
「ありがとうセリナちゃん……私、頑張るね」
「はい、頼りにしています!」
セリナは優しく葵の背中を撫でながら彼女を包み込んだ。肌の温もりを感じ合いながら2人の間に静かな時間が流れ、やがて葵は顔を上げた。その瞳にはもう迷いはなく、強い決意が宿っていた。
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