9話
「葵さん、本当にここであっているのですか?」
車をとばして目的の場所に着くと、セリナは周囲を見渡して首を傾げた。それもそのはず、なぜなら周りには海はなく、むしろ山に囲まれていた。
「大丈夫。安心して、海のダンジョンはこの先だよ」
葵の後に着いて行くと、時空の切れ目のようなものが現れた。その周りには大勢の見学者がいる。
「あっ、勇者セリナさんと葵ちゃんだ!」
「えっ、まじか! 本物だ!」
昨日の動画を見ていた視聴者は2人の登場に興奮気味に歓声をあげた。
「セリナちゃん、葵ちゃん、頑張って!」
「ダンジョン配信、期待しています!」
見学者たちは口々に声援を送りながら2人に手を振った。葵は相棒の自撮り棒を掲げ、セリナは少し恥ずかしそうに頬を赤めながら手を振った。
「いってらっしゃい!」
「気をつけてね~」
「今日の配信も楽しみにしているよ!」
見送りの言葉を受けて時空の切れ目にダイブすると、世界が一瞬で変化した。さっきまでは山に囲まれていたのに、目の前には青い海と青い空が広がっていた。寄せては引く規則正しい波の音が心地よい。
「葵さん、あれを見て下さい!」
セリナが指をさした先には、黒い角と黒い翼が生えている男が2人いた。でもなぜか半裸で水泳用のパンツをはいている。その男たちはセリナに気がつくと、いかにも嫌そうな顔をした。
「セリナなのか? なぜ貴様がここにいる!」
「それは私のセリフです。なぜこの世界にいるのですか? 魔王バルケリオス!」
2人はバチバチと視線をぶつけながら睨み合う。張り詰めた緊張感が漂う中、葵も相棒の自撮り棒を握りしめて臨戦体制に入った。
「大体、なんですかその格好は? 遊びに来たつもりですか?」
「お前たちこそなんだその格好は、早く着替えてこい! 戦いはその後にしてやる」
魔王が指をならすと、地面からスライムが現れた。そのスライムたちの頭?には女性用の水着が乗っている。
「どう言うことですか? なぜ着替えないといけないのですか?」
「その方が視聴者が喜ぶからに決まっているだろ!」
魔王は腕を組んでドヤ顔をすると、さも当たり前の事のように叫んだ。コメント欄を見ると、確かに水着姿がみたいという意見で溢れかえっている。
〈流石、魔王様! よく分かってる!〉
〈夏といったらそう来なくっちゃ!〉
〈魔王様準備よすぎ! 最高!〉
〈これは神回の予感!〉
〈まじか、2人の水着姿が見れるのか⁉︎〉
〈素晴らしい準備! 夏の盛り上がりが伝わってくる!〉
〈神回になる予感が止まらない!〉
〈2人の水着姿、想像するだけでワクワクする!〉
〈夏らしい完璧な展開! 魔王様、最高です!〉
「どうしますか? 葵さん?」
「う~ん……断れる雰囲気じゃないね……それに魔王の言っている事も一理あるよ。視聴者はきっと喜ぶよ」
セリナと葵は各々気に入った水着を選ぶと、木陰に移動して着替えを始めた。
「あの……葵さん、これって本当に大丈夫ですか? かなり表面積が少ない気がするのですが……」
「まぁ、うん、だってビキニだからね。間違っていはいないよ」
「でも、ちょっと恥ずかしいです……」
「大丈夫。似合っているよ」
着替えた葵は、モジモジしているセリナの手を引っ張って魔王の元に向かった。2人が選んだのは定番の三角ビキニだった。葵は水色を選び、セリナは白色を選んだ。
【3000円】〈うぉおおおお!!! ありがとうございます!!!〉
【2000円】〈最高! 2人ともめっちゃ似合っている!〉
【2200円】〈セリナちゃん、なかなかのおっπだな〉
【1800円】〈葵ちゃんのも控えめながら美しいです!〉
【4000円】〈ありがとうございます。ご馳走様です〉
【2500円】〈ありがとうございます。本当にありがとうございます〉
【2000円】〈最高! 2人の水着、めっちゃ似合ってるよ!〉
【3000円】〈本当にありがとう!これからも応援してます!〉
【5000円】「魔王様、ありがとう!!!!〉
コメント欄の言う通り2人の水着姿は多くの人を魅了するものがあった。葵は元陸上部で、毎日過酷なトレーニングをしていたため、引き締まった体をしている。おまけにお腹にうっすらと縦ラインが入っていた。
一方セリナは、銀色の長い髪と透明な肌が太陽に照らされて幻想的な美しさを秘めていた。おまけにすくすくと育った豊満な果実が贅沢に露出している。
「セリナちゃん、すごく似合ってるよ!」
「そっそうですか? 葵さんだってすごくお綺麗です!」
2人は互いの水着姿を褒め合うと、自分にはないものを見つめて、バレないようにため息をついた。
(相変わらず、セリナちゃんは大きな物をお持ちだな……)
(葵さんのお腹、細くて羨ましいな……)
「これで準備が整ったな」
魔王は腕を組むと、2人を見比べて満足そうに頷いた。
「バルケリオス、一体あなたは何を企んでいるの?」
セリナが問い詰めるような口調で尋ねると、魔王は喉を鳴らしながら不気味な笑みを浮かべた。
「決まってるだろ。我の目的はこの世界を征服することだ!」
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