第30話 もうひとつのぎおん祭り
10月27日の正午、俺は大いに期待しながらパソコンを立ち上げ、ヨムカクのページを開いた。
1位 量月 孤独を愛する
2位 博之新 ウサギの死
3位 朝木数 愉快な一人旅
4位 二帆 一人カラオケ
5位 安眠 一人焼肉
6位 沖井仁 解散コンサート
7位 ヒマヒマ 都会での一人暮らし
8位 葉月るる 一人上手
9位 宮田恵一 一人相撲
10位 九子実 三たびもじってしまいました。
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34位 ケンタ 一人トランプ
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1322位 昭和のスーパースター 孤独なハエ
(おっ! また順位が上がってる。この調子だと、最後の回でトップテンを狙えるかも……ていうか、昭和のスーパースターさん、また最下位だけど、これって、ある意味奇跡だよな)
俺はそんなことを思いながら、講評に目を向けた。
【まずは10位以内に入られたみなさん、おめでとうございます。みなさんの作品は来年刊行予定の短編集に収録されますので、楽しみにしていてください。
さて、前回のテーマ『孤独』に関してですが、前の二回と比べて優しくなったせいで、皆さん筆が進んだのではないでしょうか。その中で10位以内に入った作品は、一人ぼっちの寂しさや切なさを見事に表現されていました。もちろん10位以下の作品の中にも、そういったものはあったのですが、緻密さの点で10位以内の作品と差が付いたように思います。
さて、次はいよいよ最後となるわけですが、皆さんを苦しめないよう、比較的簡単なものにしました。ずばり今回のテーマは『祭り』です。参加者の皆さんは、10月29日の正午までに作品を投稿してください。】
(最後のテーマは『祭り』か。よーし、めちゃくちゃ面白いものを書いて、書籍に収録されるトップテンを目指すぞ)
俺はそんな野望を抱きながら、タイトルを『もうひとつのぎおん祭り』とし、早速書き始めた。
【令和六年七月某日、大杉一家は主である研一の転勤に伴い、東京から京都の祇園町に引っ越してきた。小学二年生の息子雄介は、家の近所で祭りが開催されていることをクラスメイトから聞き、「ねえ、お父さん。なんかこの近くで祭りをやってるみたいだから、次の日曜日に連れていってよ」と、研一にせがんだ。
「祭り? ああ、多分それは祇園祭のことだろう。でも、行くのはちょっと面倒だな。父さん転勤してきたばかりで気疲れしてるから、休みの日は家でのんびりしてたいんだよな」
「ええー! そんなこと言わないで行こうよ。せっかく京都に引っ越してきたんだから、その地特有の祭事を満喫しようよ」
「お前、祭事とか満喫とか、どこでそんな言葉覚えたんだよ。どう考えても、小二が使う言葉じゃないだろ」
「そんな話の論点をすり変えてごまかそうとしたって、そうは問屋が卸さないからね」
「おい、おい。今度は論点に問屋かよ。お前、本当に小二か?」
「なに当たり前のこと聞いてるの? それより、祭りはどうするの? 連れていってくれるの?」
「分かった。じゃあ、とりあえず考えておくよ」
日曜日の朝、雄介は浮き浮き気分で研一を起こしにいった。
「ねえ、お父さん。早く起きてよ。今日祭りに連れてってくれるんでしょ?」
「ああ? 父さん、疲れてるんだよ。もう少し寝かせてくれよ」
「もう九時だよ。早く行こうよ。この前ちゃんと約束したじゃないか」
「俺は行くなんて一言も言ってない。考えておくと言っただけだ」
「今更そんなこと言うなんてずるいよ! もう、ぼくは行く気満々なんだからね」
「まあ、そう言うな。なにもわざわざ出掛けなくても、祭りなら家でもできるじゃないか」
「どういうこと?」
「じゃあ、今から父さんが実践してやるから、ちょっとそこで見てろ」
研一はそう言うと、「ピカッ、ビリビリ、タタタッ、ブルーンブルーン、カラカラ」と、謎の言葉を発しながら、部屋の中を歩き始めた。
「お父さん、何してるの?」
「なんだよ。ませたこと言ってても、やっぱりまだ子供だな。父さんのやってることが分からないのか?」
「分からないから聞いてるんだよ。もったいぶってないで、早く教えてよ」
「じゃあ、しょうがないから教えてやろう。父さんは今、擬音を発しながら部屋を歩き回っただろ? つまり、これもぎおん祭りの一種なんだよ」
「なんだ、そういうことだったのか。じゃあ、ぼくも一緒にやっていい?」
「もちろんさ。じゃあ、父さんが先に行くから、お前は後ろから付いてこいよ」
「うん、分かった」
「じゃあ、行くぞ。ブリブリッ、タンタン、ポローン、テケテケッ」
「パンパン、コロコロ、バキューン、プニプニ」
二人が思いつくままの擬音を発しながら部屋を歩き回っていると、「あらっ、あなたたち何してるの?」と、怪訝な声が聞こえてきた。
「あっ、お母さん。今、お父さんと祭りを楽しんでるんだ」
「祭り?」
「うん。ただ擬音を発しながら部屋を歩いてるだけなんだけど、これが結構楽しくてさ。お母さんも一緒にやろうよ」
「ええー、そんなのが本当に楽しいの?」
母親の紀美子は疑いの目を向けながらも、「ギーコギーコ、リリーン、ボヨーン、サササッ」と、擬音を発しながら部屋を歩き始めた。
「あははっ! これ、めちゃくちゃ面白いんだけど!」
「ねっ、ぼくの言った通りだろ? じゃあ、今から三人で一緒にやろう」
その後三人は、この擬音祭りを心ゆくまで堪能した。】
(うん。この発想は他の人にはできないだろう。これはマジでトップテンを狙えるかも)
俺は今までの中で一番手応えを感じながら、投稿ボタンを押した。
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