第31話 『アンソロジーを狙え』最終結果
11月3日の正午、俺は書籍収録を願いながらパソコンを立ち上げ、ヨムカクのページを開いた。
【みなさん、こんにちは。『アンソロジーを狙え』の最後のテーマである『祭り』に、なんと過去最高の千五百あまりの作品が集まりました。それでは早速、参加者すべての順位及び作品のタイトルを発表しようと思います。】
1位 肥前ロング 佐賀のがばい祭り
2位 川岡咲美 思い出のひな祭り
3位 大本けん 楽しい柱建て
4位 月代礼 アフターカーニバル
5位 上東良夫 わっしょい!
6位 二歩 成金人生
7位 ゆうかり 還暦の祝い
8位 アカヤ 寿な夜
9位 名も無き人 サポート好き
10位 九子実 最後までもじってみました(笑)
11位 ケンタ もう一つのぎおん祭り
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1506位 昭和のスーパースター 産婆のサンバ
(ああっ! あと一つ順位が上だったら、書籍に収録されていたのに……ていうか、この10位の九子実って、全部の回でトップテンに入ってるけど、一体何者なんだ?)
俺はそんなことを思いながら、講評に目を向けた。
【まずは10位以内に入られたみなさん、おめでとうございます。みなさんの作品は来年刊行予定の短編集に収録されますので、楽しみにしていてください。
さて、最後のテーマ『祭り』に関してですが、参加数が表す通り、今までの中で一番書きやすかったのではないでしょうか。その中で10位以内に入った作品は、どれも個性豊かで、私たち審査員を大いに楽しませてくれました。それ以外の作品にも奇抜な発想のものや、アイデアが面白いものが数多くありました。これらの作品を書かれた方々は、今後その感性を更に磨いて、良い作品を書いていってください。
なお、この『アンソロジーを狙え』は来年も開催する予定です】
(この奇抜な発想って、もしかしたら俺のことかも……書籍収録を逃したのは悔しいけど、よく考えたら11位って凄いことだよな)
参加者のほとんどが年上の中でここまでやれたのは、大健闘と言えるだろう。
来年また開催するみたいだから、書籍収録はその時また狙えばいい。
俺は自分にそう言い聞かせながら、そっとパソコンを閉じた。
二週間後、簿記部でちょっとした騒動が起こった。
検定試験の二級に落ちて泣いている一条の横で、受かった高橋が大喜びしたことで、俺と林の男性陣、北野と平中の女性陣で、意見が真っ二つに分かれた。
「いくら二級に受かって嬉しいからって、落ちた人の横で大げさに喜ぶのは、ちょっと配慮に欠けてるんじゃないかな」
北野がそう言うと、林が「俺はそうは思わない。今まで努力してきたことが報われたんだから、喜ぶのは当然だろ」と、真向から否定した。
「そうかな? 高校の合格発表みたいに、全然知らない人なら話は別だけど、一条さんはそうじゃないでしょ」
「それって、ちょっとおかしくないか? それじゃ、知ってる人は傷つけてはいけないけど、知らない人なら傷つけてもいいってことになるじゃないか」
平中の意見に、俺はすぐさま反論した。
「そもそも、日本人は気を遣い過ぎなんだよ。嬉しい時は、素直にそれを表現すればいいんだよ」
「気を遣って、何が悪いの? それこそが日本人の持つ美しい心じゃない」
今度は林の意見を、北野が真っ向から否定した。
「俺は悪いなんて言ってないだろ。何事も程度が大事だって言ってるんだよ」
「そうだよ、北野。林だって、そんなことくらい分かってるんだからさ」
「そんな恵美を小馬鹿にしたような言い方はないんじゃない?」
今度は俺の言ったことを、平中が反論してきた。彼女が俺に対して、ここまで敵意を表すのは珍しい。というか、初めてだ。
なかなか落としどころが見つからず、しばらく膠着状態が続く中、隣の部屋にいた岩田先生が俺たちの間に割り込んできた。
「お前ら、もうその辺にしたらどうだ。当事者の二人が困惑してるじゃないか」
先生にそう言われて、ふと二人に目を向けると、さっきまで笑顔だった高橋とさっきまで泣いていた一条が、不安げな顔でこちらを見ていた。
「先輩、もう私たちのことで言い争いをするのはやめてください」
「私はもう平気なので、どうか仲直りしてください」
「そうか。なんか心配させたみたいで、悪かったな」
「私たちは大丈夫よ。これくらいのことで仲違いなんてしないから」
「後輩を不安がらせるとは、俺たち先輩失格だな」
「そうね。しかも途中からは、二人のこととまったく別の話をしてたしね」
俺たちは話の途中から、完全に二人のことを忘れていた。
ちなみに、俺たち二年生が受けた一級の合格発表は来月なんだけど、あまりにも難しかったため、合格発表を待つまでもなく、全員が落ちているのは確実だ。
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