第29話 孤独なトランプ遊び
今回のお題『孤独』に対し、俺はタイトルを【一人トランプ】に決め、早速書き始めた。
【全世界に及ぶ伝染病の流行のせいで、派遣先である自動車工場の業績が著しく悪化し、俺は今月いっぱいで契約を切られることになった。
「それにしても、酷い話ですね。まさかこんな突然クビになるなんて」
俺は会社が下した判断の不満を、同じ派遣社員の田中さんにぶつけた。
「まあ仕方ないよ。こんな状況では、会社としても、そうせざるを得なかったんだろう。それより、吉田君はもう次の仕事は決まってるのか?」
「いえ。できれば、次も自動車関連の仕事をしたいんですけど、この状況じゃ、それも難しそうですね。それより、田中さんはどうなんですか?」
「俺もまだだ。もう六十歳だし、そう簡単には見つからないよ。でも君はまだ若いんだし、自動車にこだわらなければ、すぐにでも見つかるだろ?」
「まあそうですけど、車が好きなので、そこはなかなか譲れないんですよね」
大が付くほどの車好きな俺は、今のところそれ以外の仕事に就く気はまったくなかった。
結局、月末になっても仕事先が決まらなかった俺は、工場を辞めた翌日から職安に通うことにした。
(多分すぐには決まらないだろうから、図書館にでも行ってみるか)
元々本が好きだった俺は、この機会に気になっていた小説を何冊か借りようと図書館に出向いたが、昨日発令された緊急事態宣言により、今日から二週間閉館すると書かれた紙が玄関に張り出されていた。
(なにー! よりによって、まさか今日からなんて。あと一日ずれていれば、借りられたのに。……仕方ない。昔、子供の頃にやった遊びでもするか)
俺はそんなことを思いながら家に帰る途中コンビニに寄り、トランプを買った。
やがてアパートに着くと、俺は早速ケースからトランプを出し、三人分配った。
「さあ、まずは俺の得意なババ抜きからだ。岡部に塚本、十回のうち一回でも俺に勝ったら、逆立ちして町内を一周してやるよ」
「言ったな」
「おい、岡部。絶対吉田を負かせてやろうぜ」
二人はタッグを組み、俺に勝とうと全力で挑んできたが、それに動じることなく俺は九回連続で勝利し、次が最後の勝負となった。
「くそ、次こそ絶対勝ってやるからな」
「絶対お前を逆立ちで町内一周させてやる」
二人はそう息巻いていたが、それも空しく、俺は残り一枚となった。
「さあ、これで俺が手持ちの札と同じ数字の札を引けば、勝負は決まる。お前ら、覚悟はいいか?」
「望むところだ!」
「絶対引かせない!」
塚本は残り三枚のうち、真ん中の札を高くして、俺を誘ってきた。
この場合、考えられることは二つだ。一つは、ジョーカーを真ん中にして、誘導させる作戦。もう一つは、それを
普通の者なら悩むところなんだろうけど、俺は一切そんなことはしない。
なぜなら、俺はどこにジョーカーがあるか分かってるから。
俺は真ん中の札がジョーカー、右の札が俺の手札と同じ数字の札なのを確認すると、迷っている振りをしながら、右の札を引いた。
「よし! これでまた俺の勝ちだな」
「くそ、結局一回も勝てなかった」
「というか、お前なんでそんなに強いんだよ」
「それは秘密だ。言えば、お前らがもう二度と相手をしてくれなくなるかもしれないからな。はははっ!」
俺はそう言うと、次に七並べを始めた。
ゲームの最中、早々に行き詰った塚本がパス四回でリタイアすると、一騎打ちとなった岡部を一気に攻め立てた。
まずジョーカーを巧みに使い、岡部の手に渡らせると、今度は彼にジョーカーを使わさせないよう、頭を使いながらカードを出していった。
その結果、岡部はジョーカーを使うことができず、俺の勝利となった。
その後も大富豪やセブンブリッジ等をして、当然のように俺が勝ち続けたが、途中で彼らが拗ね始めたので、俺は時折わざと負けたりしながらゲームを続けた。
結局この遊びは、その後二週間続いたが、いくら子供の頃やっていた遊びとはいえ、二週間もやればさすがに飽きる。
俺は緊急事態宣言の期間が終了すると、すぐさま図書館に出向き、目当ての小説やエッセイ等を限度となる十冊借りた。】
(うん。『孤独』というお題にもバッチリ合ってるし、ラストの主人公が図書館に出掛けるシーンは、彼の心情がよく表さわれていると思う。これは結構期待できるんじゃないか?)
俺はそんなことを考えながら、投稿ボタンを押した。
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