第25話 『アンソロジーを狙え』初回のテーマ発表!

 林と伊藤が付き合うことになった。

 それにより、上原が俺に傾いてくれると期待していたのだが、そんな甘い考えなど起こるはずはなかった。


 これで俺の残された道は、俺に好意を寄せている一条と付き合うか、平中に告白するかに絞られたわけだけど、前者はともかく後者はリスクが高過ぎる。


 となると、あとは一条と付き合うしかないのだが、俺としてはそれを平中に知られたくない。けど、多分それは無理だろう。

 

 そんなことを考えながら、いつものメンバーで紙マージャンをしていると、対面に座っている平中が怪訝な目を向けてきた。


「斎藤君、さっきから何を考えてるの?」


「えっ! お、俺は別にお前のことなんか考えてないよ」


 慌ててそう返すと、北野が大声で笑い出した。


「あははっ! 斎藤君、なにうろたえてるのよ。小百合はそんなこと言ってないでしょ」


「……そうだったな。すまん、俺の早とちりだ」


「で、結局なにを考えてたんだよ?」


 林がニヤニヤしながら聞いてきた。


「日本の将来についてだよ。このまま少子高齢化が進んだら、お先真っ暗だからな」


 咄嗟にそう言うと、三人は揃って疑いの眼差しを向けてきた。


「お前ら、なんだよ、その目は。俺が嘘を言ってるとでも思ってるのか?」


「当然だろ。お前がそんなこと考えるわけないからな」

「そうよ。私や小百合ならともかく、斎藤君が日本の将来について考えるとは、とても思えないからね」

「この際、正直に言った方がいいんじゃない?」


 みんなに責められながら札をツモった瞬間、俺はまさかのあがり札を引いたことに興奮を抑えきれず、「ツモ!」と叫びながら手札を倒した。


四暗刻すうあんこう単騎。ダブル役満だ」


「なにー!」

「うそっ!」

「信じられない!」


「はははっ! 俺はこの役をあがるために、お前らに警戒されないよう、わざとぼうっとしてたんだよ。お前ら、まさか俺がこんな役をテンパってたとは、夢にも思わなかっただろ?」


「ぐっ……悔しいけど、まったくその通りだ」

「私、ダブル役満なんて初めて見たわ」

「これで三人揃ってハコテンね」


 俺はなんとかごまかせたことと、初めてダブル役満をあがったことと、みんなをハコテンにしたことが重なって、大いに満足していた。




「先輩、この問題が分からないんですけど」


 先日、俺に告白して以来、一条の態度が前にも増して積極的になった。

 聞かなくても分かるような問題でも、すぐに俺に聞こうとする。


「それ、三級の問題だろ? お前もうとっくに三級受かってるじゃないか」


「それでも、分からないものは分からないんです。冷たいこと言わないで、早く教えてくださいよ」


「別に俺に聞かなくても、北野や平中に聞けばいいだろ」


「先輩、もしかして照れてるんですか? 二人乗りまでした仲なんだから、今更恥ずかしがることないじゃないですか」


「あ、あれは好きでやったわけじゃない! 先生に命令されて、仕方なくやっただけだ!」


「あー、先輩、赤くなってる。かわいい」


「ぐっ……仕方ねえな。ちょっと見せてみろ」


 俺は彼女に言われるがまま、教えてやった。



 10月6日の正午、俺はドキドキしながらパソコンを立ち上げた。

 今日はヨムカクのコンテスト『アンソロジーを狙え』が開催される日。

 期待と不安が半々な中、ヨムカクのページを開くと、既に一回目のテーマとなる【直観】が発表されていた。


(はあ? 直感なら分かるけど、なんだよ直観って……こんなテーマで、一体どんな物語を書けっていうんだよ)


 いきなりの難題に頭を抱えていると、テーマの後に主催者からのメッセージが書かれていることに気付いた。


【みなさん、こんにちは。いよいよ本日より、ヨムカク史上最大のコンテスト『アンソロジーを狙え』が始まりました。記念すべき第一回目のテーマは、少し難しいかもしれませんが、【直観】とさせていただきます。皆さんがどのような直観にまつわるものを書かれるか、今から楽しみで仕方ありません。なお、締め切りは明後日の正午となりますので、くれぐれも遅れることのないよう、お気を付けください。みなさんの力作を心よりお待ちしています】


(ふん。こっちの気も知らないで、何が『楽しみで仕方ありません』だよ。……くそっ、明日と明後日は学校があるから、今日中にほぼ完成させないといけないのに、アイデアがまったく浮かんでこない。これは今日は徹夜になるかもしれないな)


 俺は長期戦を覚悟し、【直観】という難題のテーマから、まずはどんなジャンルの物語を作り出すかを考える作業から始めることにした。


 


 


 


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る