第3話 俺の秘密
全国大会の問題と検定の問題を並行して行うことになったせいで、練習時間がそれまでより一時間長くなり、家に着くと既に八時を過ぎていた。
これじゃ強豪校の運動部並だよと思いながら、風呂に浸かっていると、ふと先程の一条のことを思い出した。
同じ女子の北野と平中を差し置いて、わざわざ俺に聞くくらいだから、俺に好感を持っているのは間違いないと思う。けど、その後、林にも同じように接していたから、彼のことも悪くは思っていないのだろう。
彼女は俺と林のどちらが本命なのか、それともどちらにもそういう感情はなく、ただ人懐っこいだけなのか……。
実を言うと、俺は平中のことを一年の頃から密かに想っている。
向こうは俺のことを友達としか思っていないみたいだから、振られるのが怖くて、未だに告白できないでいる。
もし一条が俺に気があるのなら、平中への想いは封印して、彼女と付き合ってもいいんだけど……。
こういう考えがよくないことは分かっている。けど、商業高校という男子にとって恵まれた環境にいる中で、彼女がいないのはやはり寂しい。
これは俺だけじゃなく、林や他の男子連中もみんな思っていることだ。
やがて風呂から出ると、俺は母の作ったカレーにかぶりついた。
落ち着いて食べなさいという母の言葉を無視して、そのまま一心不乱に食べ続け、結局三皿平らげた。
その後自分の部屋に戻ると、俺はすぐさまパソコンを立ち上げ、小説投稿サイトの【ヨムカク】のページを開いた。
(おっ! 今日も結構コメントが来てるな)
自作の『三角関係の果てに』というタイトルのラブコメ小説に届いているコメントを、俺はすぐさまチェックした。
『相変わらず竜也はいい加減な奴ですね』
『美和と優紀はなんで竜也のことがそんなに好きなんでしょうね』
『竜也のモテモテぶりが羨ましいです』
『俺も竜也みたいになりてえ!』
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(竜也のことをダメ人間に書けば書くほど、コメントが増えるな。よーし、彼にはこのままダメ人間でいてもらおう)
そんなことを考えながら、俺は早速続きを書き始めた。
俺は高校に入ってすぐの頃に小説投稿サイトの存在を知り、いくつかあるうちの中から使いやすさを重視して、この【ヨムカク】に決めた。
元々本が好きで、小学生の頃から小説や伝記を読んでいたんだけど、実際に物語を書くようになったのは半年前からだ。
その頃は文章の稚拙さもあって、書いても書いてもPVが増えず、コメントに至っては、ほぼ皆無の状態だった。
そんな時、あるユーザーが自身のエッセイで、『自分の書きたいことだけを書いているうちは、読者の心には刺さらない。いかに読者に楽しんでもらうかを常に考えながら書かないと、面白い作品にはならない』と書いているのを見て、俺はその日から書き方を百八十度変えた。
すると、それまで主観でしか見られなかった自作を客観的に見られるようになり、全体的に視野が広がった。
また、その頃から文章も上達し始め、それによって読者が徐々に増えていき、今では自作のブックマークは三桁に届いている。
(ああ眠い。そろそろ寝るか)
夢中で書いているうちに、時間はいつの間にか一時半になっていた。
俺はパソコンを閉じると、そのままベッドに潜り込んだ。
翌朝、七時半にスマホのアラーム音で目を覚ました俺は、そのまま洗面所に直行し、顔を洗った。
昔から寝起きはいい方なので、たとえ六時間しか寝ていなくても、頭はスッキリしている。
また食欲も旺盛で、今日も朝からごはんを三杯平らげた。
「行ってきます」
八時に家を出ると、俺はいつものように自転車に乗って学校へ向かった。
歩行者と歩行者の間をすり抜けたり、自転車に乗っている者とすれ違ったりしているうちに、同じ高校に通っている生徒たちの制服が目につき始め、学校までの距離が近づいていることを感じさせる。
やがて、いつもと同じ八時十五分に学校へ着くと、俺は駐輪場の端っこに自転車を停め、二年一組の教室に向かった。
「おはよう」
既に登校している林に挨拶すると、「おはよう」と返してくれた。
まあ、ここまでがいつもの俺のルーティンだ。
北野と平中はいつも俺より遅く登校してくるので、この段階ではまだ二人の姿は無い。
「ところで、昨日お前何時に寝た?」
林が唐突に聞いてきた。
「一時半だけど、それがどうかしたか?」
「よくそんな時間まで起きていられたな。おれなんて十時にはもう布団に入ってたっていうのにさ」
「それはちょっと早くないか? 小学生じゃないんだからさ」
「いつもはもっと遅くまで起きてるんだけど、昨日は練習時間が長かったせいか、ご飯を食べたら、すぐに睡魔が襲ってきてさ」
「確かに昨日は疲れたな。この先これがずっと続くと思うと、嫌になるよ」
「それより、お前そんな時間まで何してたんだ?」
「……別に、特別なことはしてないよ。【アイチューブ】や【チックタック】の動画を観ているうちに、気が付いたらその時間になってたんだ」
俺は【ヨムカク】 で小説を書いていることを内緒にしているため、咄嗟に嘘をついた。
「ふーん。まあ別にどうでもいいんだけどな」
林は特に怪しむ様子も見せず、俺の言ったことを真に受けたようだった。
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