第2話 魔術師は褒めてほしかった。
シャベルさえあれば何とかなるだろう。
その考えが甘かったと気づいたのは村を出て丸一日経った頃だった。
地面が硬くて寝れないやら、食料なくて腹が減るやらとにかく大変だ。
さらに生まれてから一度も村を出たことがない俺が方角なんて分かるはずもなく、案の定迷子になった。
そんな中、集落を見つけた。
やっとこの地獄から解放されると思ったが様子がおかしい。
仄かに漂う血の匂いと異常なまでの静寂。
酒場を訪れると一人の少女がいた。
顔が真っ青にやつれており、何日も食事を抜いてることが分かる。
「いらっしゃい」
外から雨の音が聞こえる。
「空き家ならたくさんあるわ。好きにしなさい」
少女はそう言うと涙を零した。
その涙がここで起こった出来事の悲惨さを物語っていた。
無事に夜が明け、俺は村を散策し酒場に訪れた。
恩を返そう。墓掘人らしいやり方で。
「君の名字は?」
「アルフォースだけど」
「分かった」
「何するつもり?」
「墓を建てる」
「死体の無い墓なんて意味ないわ」
違うんだ。死体の有無なんてどうでもいいんだ。墓を建てることに意味があるんだ。
なんて小っ恥ずかしいこと言えるはずもなく、俺は黙って外を出た。昨日の天気とはうって変わって青空が広がる快晴で絶好の堀り日和だ。
*
自慢の親だった。
父さんは村一番の力持ちでいつも周りに頼られていた。
母さんは村で唯一の酒場を営んでいて、昼夜問わずいつも大繁盛していた。
そんな両親から生まれたあたしは運良く魔術の才能があった。魔術を見せると満面の笑みで褒めてくれる。
あたしは魔術学校に行くことにした。
もっと褒めてほしくて、自慢の娘だと村の人達に自慢して欲しくて。
魔術を学んで一年目にして、学校の代表に選ばれるくらい成長したあと一年振りに帰省することにした。
成長したあたしを見て、両親はどんな反応するかしら。感極まって泣いてしまうかも。
集落についた。
仄かに漂う血の匂い。
異常なまでの静寂。
すぐに紅爪の大熊の仕業だと気付いた。
復讐する気も起きなかった。
狩ったとしても誰も褒めてくれない。
狩ったとしても両親は戻ってこない。
あの惨状から一週間が経った今でも食欲が湧かない。このまま餓死しようかしら。
そう思っているとシャベルを持った一人の男が扉を開けた。
勇者よ、俺が今から葬りにいく。 ハゲタコ長男坊 @def123456
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