### 第四章: 試練の始まり
朧が放つ闇の力が、蒼牙と美羽を取り囲み、空
気がますます重くなっていく。黒い霧は二人を
隔て、闇の中に引きずり込もうとするかのよう
だった。蒼牙は自らの力でその霧を押し返そう
としたが、朧の呪いは強力だった。
「蒼牙…!」
美羽は必死に手を伸ばし、彼に触れようとした
が、霧が彼女の動きを阻んでいた。
「離れるな、美羽。俺が君を守る…!」
蒼牙は全力で霧を押し返そうとしていたが、朧
の力は彼をも揺るがすほど強大だった。
「本当に守れるのか?この試練はお前たちの愛
の強さを試すものだ。蒼牙、お前が龍の姿のま
までいる限り、その力だけでは愛を証明できな
いぞ。」
朧の声が嘲笑混じりに響く中、突然、美羽は一
人きりの世界に閉じ込められていることに気づ
いた。蒼牙の姿も、朧の声も、全てが消え、た
だ一人、真っ暗な空間に立っていた。冷たい風
が吹き抜ける中、美羽は不安に襲われた。
「これは…一体…」
美羽は周囲を見渡すが、何も見えない。彼女は
胸の奥に芽生える不安と恐れを抑えようと必死
に自分に言い聞かせた。
「蒼牙は私を守ると言ってくれた。私は一人じ
ゃない…」
その瞬間、闇の中から声が聞こえた。それは、
美羽がよく知っている声だった。
「美羽…」
「蒼牙?どこにいるの?」
しかし、次の言葉は彼女を凍りつかせた。
「私は、お前のせいでこの姿に囚われたん
だ。」
美羽は驚き、言葉を失った。
「そんな…蒼牙がそんなことを言うはずが…」
「お前が私を救うと言ったが、結局は何もでき
ないだろう。お前の愛なんて偽物だ。お前には
私を救うことなどできない。」
声はますます冷たく、非難するように響いた。
「違う…!」
美羽は自分に言い聞かせるように叫んだ。
「蒼牙はそんなことを言うはずがない。彼は私
を信じてくれている…私は彼を救いたい、必
ず…」
美羽の心に迷いが生まれそうになるが、彼女は
自分の心に問いかけた。蒼牙との旅、彼との対
話、そして彼を救うという決意。全てが偽物だ
ったのかと疑う瞬間もあったが、それでも蒼牙
に対する感情は揺るぎないものであることを確
信していた。
「私は…蒼牙を愛している。私は彼を救うため
にここにいる!」
その言葉を叫んだ瞬間、闇が一瞬にして晴れ、
光が差し込んだ。美羽の目の前には蒼牙の姿が
あった。彼もまた、霧の中で美羽の名を呼び続
けていた。
「美羽…!」
蒼牙は彼女を抱きしめるようにして、無事を確
認した。
「蒼牙…私はあなたを信じていた。私はあなた
を見捨てない。どんな試練があっても…あなた
を愛している。」
美羽の言葉に、蒼牙は目を見開き、彼女を見つ
めた。その瞬間、彼の体に変化が訪れた。銀色
の鱗が輝き始め、彼の体は徐々に人間の姿へと
戻っていった。
「美羽…」
蒼牙は驚きと感謝の表情を浮かべ、自分の手を
見る。長い間封じられていた人間の姿が、再び
彼の元に戻ってきたのだ。
「君のおかげで、私はようやく人間に戻ること
ができた。」
美羽は微笑んで蒼牙の手を握り返した。
「あなたが私を信じてくれたから、私はあなた
を救えたんです。」
しかし、二人の感動の瞬間を打ち破るかのよう
に、朧が再び現れた。
「ほう、本当に愛を証明したか…だが、これが
終わりだと思うな。」
朧の手が闇の力を操り、再び二人に向けられ
た。しかし、今や蒼牙はその力を恐れなかっ
た。美羽の手をしっかりと握りしめ、彼は毅然
と立ち向かった。
「朧、もうお前の呪いは効かない。私と美羽の
絆はお前の闇よりも強い。二度と俺たちを引き
裂くことはできない。」
蒼牙の言葉に、朧は苛立った表情を見せたが、
すぐに薄く笑った。
「そうか…ならば試してやる。お前たちがど
こまでその愛を守り通せるか…」
そう言い残して、朧は再び霧と共に消え去っ
た。
---
二人は静かな廃墟の中で立ち尽くしていたが、
今やその空気は清々しいものへと変わってい
た。美羽と蒼牙はお互いに微笑み、手を取り合
った。
「これで…終わったのですね。」
美羽は安堵の息をついた。
蒼牙は彼女の頬に手を添え、柔らかく微笑ん
だ。
「いや、美羽。これからが始まりだ。俺たちが
共に生きる未来が…」
美羽もまた、静かに頷き、蒼牙の手をしっかり
と握り返した。
*
こうして、蒼牙は再び人間に戻り、美羽と共に
新たな旅路へと歩み出した。彼らを待ち受ける
未来はまだ未知数だが、二人の絆は今や何より
も強固であり、どんな困難にも立ち向かう力を
持っていた。
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