### 第三章: 呪いの真実

蒼牙と美羽の旅が続く中、彼らは山の麓に広が


る廃墟のような村にたどり着いた。古びた石造


りの建物や、朽ちた木々が彼らの前に広がって


いた。かつてはこの場所も人々が暮らしていた


痕跡があるが、今は全てが廃れ、静寂に包まれ


ていた。


「ここは?」


美羽が辺りを見渡しながら訊ねる。



蒼牙はしばらく沈黙していたが、静かに口を開


いた。


「この村は、かつて私が守っていた場所だ。戦


乱が起こり、すべてが破壊された。そして、そ


の時に私は…龍に変えられた。」


美羽は驚きながらも、何か得体の知れない力が


この場所に残っていることを感じていた。廃墟


となった村の中で、過去に起こった悲劇が今で


も息づいているように思えた。


「私がこの呪いを受けたのも、この村のためだ


った。だが、私は守るべき者たちを救えなかっ


た…」


蒼牙の声には後悔と悲しみが込められていた。


彼の赤い瞳は、村の廃墟を見つめたまま、何か


を探すかのようだった。


「この呪いは、魔術師によってかけられたと言


っていましたね…」


美羽は恐る恐る訊ねた。



蒼牙は頷き、低い声で続けた。


「あの魔術師は、かつて私の親しい友だった。


彼もまた、この村を守りたかった。しかし、彼


は力に溺れ、自分の野望のために私を龍に変え


てしまったのだ。彼は、私が人間の弱さに囚わ


れていると考え、龍としての力で永遠に生きる


ことが私にとって救いだと言った。」


美羽は目を見開き、息を飲んだ。


「あなたの友人が…そんなことを…」


蒼牙は苦しげに微笑んだ。


「彼は間違っていた。私は力などいらなかっ


た。守りたかったのは、この村で生きていた


人々、そして…人間としての自分の尊厳だっ


た。」


その言葉に、美羽は蒼牙が背負ってきた苦しみ


と孤独の重さを痛感した。彼が求めていたのは


力ではなく、ただ愛する者を守るための存在で


あること。それを奪われ、龍として永遠に生き


ることを余儀なくされた彼の運命に、胸が締め


付けられるような思いがした。


「でも、今なら…呪いを解く方法があるはずで


す。」


美羽は蒼牙の顔を見つめ、決意を込めて言っ


た。


「私はあなたを救います。必ず。」


蒼牙は美羽の瞳をじっと見つめ、少しだけ驚い


たように目を細めた。


「なぜ、そこまで言える?」


美羽は少し戸惑いながらも、自分の気持ちを言


葉にする。


「あなたが私に話してくれたこと、あなたがど


れだけ人間として大切なものを失ってきたか…


それを知って、放っておけるはずがないんです。


それに、あなたの優しさも…私にとってはとて


も大きな存在です。」


蒼牙はしばらくの間、美羽の言葉を噛み締める


ように静かにしていた。彼の瞳の中に浮かぶ複


雑な感情が、やがて穏やかなものへと変わって


いくのを美羽は感じた。


「ありがとう…美羽。君がそう言ってくれるだ


けで、私にとっては大きな救いだ。」


美羽は頷き、二人は再び歩き始めた。しかし、


彼らが廃墟を離れようとしたその時、突然、冷


たい風が吹き荒れ、周囲の空気が重く変わっ


た。


「気をつけろ…何かが来る。」


蒼牙は身構え、赤い瞳を鋭く光らせた。する


と、廃墟の中から黒い霧のようなものが立ち上


り、その中から一人の男が姿を現した。


「久しいな、蒼牙。」


その男の声は冷たく響いた。


「…お前は…」


蒼牙は低く唸るように言葉を発した。



その男は、かつて蒼牙の友人であり、彼に呪い


をかけた魔術師、朧(おぼろ)だった。朧は冷


ややかな笑みを浮かべ、美羽に視線を向けた。


「そして、これがその巫女か…ふん、面白い。


お前が彼を救おうとしているのは分かってい


る。しかし、それが本物かどうか、試させても


らう。」


美羽は朧の冷たい目に射抜かれ、緊張感が走っ


た。しかし、彼女は怯むことなく、蒼牙の隣に


立ち、強い意志を持って朧を見返した。


「試すというのなら、どうぞ。私は決して引き


ません。彼を救うためなら、どんな困難にも立


ち向かいます。」


蒼牙は美羽の言葉に一瞬驚いたように目を見開


いたが、すぐにその背を守るように前に出た。


「お前の試練には乗らない。だが、もし本当に


美羽を傷つけるつもりなら、私はお前を許さな


い。」


朧は面白そうに笑い、手を広げた。


「ならば見せてもらおう。お前たちが本物かど


うか…」


その瞬間、空が割れたように強烈な風が吹き、


暗黒の力が二人を取り囲んだ。美羽は風に抗い


ながら、蒼牙の背中に手を添えた。


「大丈夫、私は…あなたを信じています。」


蒼牙はその言葉に力を得て、朧と対峙するため


に前へと踏み出した。


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