第15話

この間の読書週間という名の魔のイベントを乗り越えた俺を待っていたのは、体育祭と文化祭だった。うちの学校は体育祭をやった後にすぐ、文化祭をやるらしく、準備が割と同時進行で送られてとても忙しい毎日を送っている。


体育祭の伝統として男子の演舞と、女子の創作ダンスが受け継がれている。それに倣って俺らも練習しなければいけないが、これがまた難しい。しかも裸足で踊るもんだから、校庭の砂が熱くて熱くてしょうがない。晃成はサラッと舞えるようになっていて、羨ましかった。


やっぱりイケメンは何をしてもすぐ習得してしまうのか、なんて考えてしまうけどこれはただの僻みだ。俺は全然上手く舞えないからこそ晃成が羨ましく感じるだけだ。それに汗かいていても爽やかな感じがするし、なんならシトラスとかの匂いまでしてきそうだ。


「あっちー。9月だっていうのにまだこんな暑いなんて信じらんねーよな。めっちゃ汗かくし、俺汗臭くね?平気?」


「晃成はイケメンだから、汗かいてても大丈夫だろ。それに汗臭くないから安心しろ」


お互い水道で足を洗いながら話していると、体育館で練習を終えたらしい女子たちの姿が見えた。ある1人の子が通った時、晃成が手をぶんぶん振っていて何かと思った。クラスで見たこと無いから同時に体育がある5組の子だろう。


「あ、俺こないだ失恋しただろ。それで部活のマネージャーの子にめっちゃ慰められてー、なんか俺もそれで好きになっちゃってー、その子と付き合うことになったんだよね!すっごく明るくて、こっちまで笑顔になっちゃう様な子なんだよねー」


なんか、晃成を自然な流れで失恋させてしまったことに罪悪感を抱くが、そのおかげで良い子と付き合えたなら嬉しい限りだ。


「え、おめでとう!なんか晃成に負い目的なのを感じてたから…幸せそうでよかった」


「えへへー俺今めっちゃ幸せー」


(うわーなんかいろんなもんが浄化されるわー。男の俺ですら浄化されるんだから、女子からしたらひとたまりもないよな、きっと)


やっと体育の授業が終わり、更衣室へ戻るときに下駄箱で晃成からそういえばさーと話しかけられた。


「お前、夏休みになんか女の子と駅前のカフェでデートしてただろ。俺見てたからな」


「あー…あれデートじゃないよ。なんか不良だった女子高生を更生させたら、お礼にご飯でもってなってあーなった」


「いや、それをデートって言うんだよ。てか更生って何したの和樹」


真面目な顔をして晃成に言われたが、誰になんと言われようとあれはデートでは無いのだ。ただのエロゲイベントだ。広瀬さんは体調不良で帰って次、バイト来た時にすごい馬鹿でかいそして高そうな菓子折りもらったし。まだ家にそのお菓子残ってるし。


「え、なんかバイト終わりに制服で立ちんぼみたいなことしてたから怒っただけ」


「和樹すご。そんけーだわ、俺そんなことできない」


そんなすごいことかな。おっさんの俺の目線から見たらあんますごい気がしない。ていうか、あの時は迫られてきて身の危険を感じたからできただけな気がする。普通の状態だったら立ちんぼ女子高生とかを更生しようとか思わない。


「まあそれはいいとして、あとで俺の彼女の写真も見せるな!俺、花火デートできて楽しかったからそれを和樹に共有したい。彼女ちゃんの可愛さを見せつけたい。あ、でも絶対好きになるなよ!?お前影で結構モテてるらしいし」


「そんなわけないって。ていうか夏休み中に送ればよかったじゃん。なんで今?」


「あー…浮かれすぎてて彼女ちゃんとしか連絡してなかったから。ごめん」


晃成が楽しそうでなによりだ。おっさんの俺は、そんな甘酸っぱい恋愛できそうにない。精神的にキツそうな気がする。ふと我に返った時に何してんだろ、ってなる予感しかしない。


(好きな子はいるけど、毎日ずっとは無理だなぁ)


教室につくまで晃成の彼女自慢は続いたが、楽しそうな晃成を見れたので無問題だ。俺はまだすみれちゃん好きだなーていうふわふわした感じを味わいたいのでいいや、と思った。


(文化祭でなんか、すみれちゃんと進展ないかなぁ…)


そう思い、教室へと戻るのだった。

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