第16話
今日は総合の授業は1時間分を使って文化祭の出し物を決める時間だ。1年生は何か出店ていう形になるらしいけど、衛生上の問題で生の食品はどの学年でも扱えないらしい。お菓子を配るとかはおっけー、て文化祭実行委員が言ってた。
「文化祭で何の店やりたいか決めたいと思います。案ある人手挙げてほしいです」
「はい!うちらで考えてたんだけど、夢の国みたいなアトラクションをやりたいでーす!」
クラスのいわゆる一軍女子がそう言って手を挙げていた。正直、決まらなくて時間が過ぎるより、さっさと決まる方が楽なので案をあげてくれてありがたい。
「あー、具体的にどんな感じにするとかありますか?」
「カートみたいなのに人を乗せて、運ぶ?みたいな感じです!」
「あー、いい感じっすね。他に意見なかったら今のでいこうかなって思うんですけど、どうですか?」
シーンとなり、誰も手を挙げなかったのでこの意見が採用された。役割決めとなり、晃成など顔が華やかなメンバーは案内役や呼び込みをすることになり、俺らの様な地味メンツは裏方となった。
文化祭は2日間あり、ちょうど俺はすみれちゃんとその他男女2人と担当時間が被ることになった。一応俺らが担当する時間帯は男子の方が力一応あるっていうことで男子がカートを押し、可愛い衣装を着た女子が受付をすることになった。
「あの、田中君。…その、嫌だったら答えなくていいんだけど、田中君って割と学校近くのマンションに住んでたりする?」
「そうだけど、それがどうした?」
あの、猫と戯れてたこと見られたのまだ覚えてるのかな。なんか好きな人に自分を認識してもらえてるって、なんか嬉しいよね。俺だけなのかな、こう思うの。ていうかそんな記憶に残るほど、恥ずかしかったのかな。なんかやっぱ萌えるな。
「いや…何でも無いの。ただちょっと気になって、ごめんね」
「そう?別に気にしてないからいいよ」
(やっぱ、覚えてんのかな。可愛いなー)
あれから、猫と戯れてるすみれちゃん見たことないけど、どっかで他の野良猫と戯れてんのかな、って想像したらすごく萌える。きっと可愛いんだろうな。
「この4人のメンバー間でも連絡できたら楽だから連絡先交換しよー」
そうして俺はすみれちゃんの連絡先を入手した。ゲームの効果音でレベルアップの音楽が鳴った様な感覚だった。こう、レベルアップしたみたいな。一応クラスのグループはあるが、個人的な登録をするのはするタイミングがなかったからとっても嬉しい。
『西野です。よろしくおねがいします』
『田中です。こちらこそ!』
(すみれちゃんと初トーク!)
初トークに感動して、今日の授業を終えた。それから俺は、部活にちょっとだけ顔を出したから、何もない日より若干遅い帰りとなった。横断歩道の向こうに猫を発見して、思わずすみれちゃんがいないかな、なんて都合のいい妄想をしてしまう。
(いや、そんな都合のいい話ないよな)
車が通る中、信号待ちをしていたら猫に寄る影と長い髪の毛が見えて、すみれちゃんだ!と確信した。けど猫が走り去ってしまい、しゅんとしたすみれちゃんの背中を見て思わず唸ってしまった。可愛過ぎる、なんだあの生物。
(この時間に帰ってんのか…これからも時間ずらして帰ろうかな)
幸運なことにすみれちゃんからは俺が見えてなかったらしく、その後も何事もなく文化祭準備が続いたのはちょっと悲しい現実だ。その方が避けられないからむしろ良かったのかもしれないっていうのは余談だ。
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