第5話

美術部に入った俺は、割りと充実した日常を送っている。部活は緩いし、好きな時に来て帰っていいというのが推しポイントだ。けど学園祭などで飾れるように絵を仕上げる、とか制約的なものは一応ある。それに美術部の1人に割と可愛い子がいて、俺は部活に来るたびにひそかにテンションが上がっている。


「同じクラスの田中君だよね?私、上谷真莉ていうの。田中君も風景が好きなの?」


「うん、田中だよ。よろしくね上谷さん。んー強いていえば風景画が好きってかんじかな」


可愛いなーとひそかに思っていた子は上谷さんっていうのか。そういえば、晃成が好きって言ってた子って上谷って苗字だったよな。たしかに可愛い。可愛くて俺にアクションかけてくるなんてエロゲキャラだけだろって思ってた。


今のは同じクラスだったから話しかけた、っていう会話で俺の解釈はあってる?なんかあってない気がして不安になってきた。なにより晃成の片想い相手に狙われるなんて嫌だ。せっかく晃成と仲良くなったのに、俺の友達が1人もいなくなってしまう。そんなのは嫌だ。


「同じ!私も風景が好きなの!私は朝日とか夕日が昇んだり沈んだりするところ…だから朝焼けとか夕焼けが特に好きなんだけど、田中君はどんな風景が好き?」


「俺は雲とか青空がすきかなぁ。だから晴れた日の昼?月が出ててもエモい感じがあって良いなって思う」


なんか絵描けますみたいなこと装ってこんなこといってるけど、俺に絵の才能はない。中の下くらい…いや中の中くらいって思いたい。そんな会話をしたのが昨日だ。


「晃成―。上谷さんと昨日話したんだけど、たしかに上谷さん可愛いと思ったわ。部活一緒でちょっとしゃべった」


最近はこのイケメンフェイスにも耐性ができて、一緒に中庭のベンチで昼飯を向かい合って食べることにも慣れてきた。俺は一人暮らしで弁当をつくるのなんてめんどくさくて、だいたい昼は菓子パンだ。晃成の昼ごはんは晃成母のお手製弁当だ。正直うらやましい。俺の分も作ってくんないかな、お金払うから。


「は!?ずるい!!てかお前も狙ってんの!?」


「いや、客観的に見てって意味だから。普通のクラスメイトとしては仲良くしていきたいつもりだけど、狙ってないから落ち着けって」


焦っていた晃成を見て早く告ればいいのにって思う。恋にも部活にも一生懸命なんて青春は、おっさんの俺にはやっぱり眩しすぎる。周りからみたら俺も青春しているように見えるのかもしれないが、やっぱり2度目ともなるとちょっと違う感覚になる。


(晃成は顔がいいんだから、晃成から告ったら大体の子ならOKもらえそうなのにな。なんですぐ告らないんだろう。まぁ告りたくない気持ちも分からんでもないから、俺も人のこと言えないんだけどさ)


「あ、そうだ。お前西野さん?だよな…のこと好きだろ。」


菓子パンをもさもさ食べてたら晃成から急にそんなこと言われてむせてしまった。


「え”、ん“んっ、ごほっ」


なんでわかった。そして、絶対に晃成にはバレた。詰んだ。


「あ、マジ?ふとした時に西野さんの方向しか見てないからそうかな、って思ってカマかけただけだったのに。へーお前あーゆー子がタイプなんだ」


「いや、タイプっていうか。声がめっちゃ好きなんだよ。あの透き通るようで若干低くて深みのあるような声?まぁ、たしかに黒髪の前髪重めぱっつんロングは好きかな」


確かに好きなところは、スラスラいえたからちゃんと彼女のことが好きなのかもしれない。いや、やっぱこの思いは認めざるを得ないのか。いや、まだ認めない。


「めっちゃ好きじゃん。そんな好きなとこスラスラ言えるんだし。告っちまえよ、振られたら慰めてやるからよ」


「振られる前提じゃねーかよ、やめろよ。仮に告るとして友達なら、うまくいくように祈れよ」


笑いながらこんな会話できるなんて、俺はなんていい友達ができたんだ。


「じゃ、じゃあ!晃成は上谷さんのどこが好きなの?」


「俺はねー…まず、笑った時の顔でしょ。あと、あの子いつもポニテしてるじゃん。俺多分うなじ見るの好きなんだよね。今俺の方が席上谷さんより後ろだから見放題だし。あと姿勢がめっちゃいいところとか、スラっとしてて立ち姿が綺麗とか。好きなとこはいっぱいある!」


めっちゃ健気やん。おっさん涙がちょちょぎれそうだよ。好きなことがめっちゃ伝わってきた。晃成の笑顔で俺の心も和んでしまった。


「俺も西野さんの好みのタイプとか探ってみるから、お前も上谷さんの好みのタイプとか聞けたら聞いて欲しい!」


「聞けるかわかんないけど、頑張ってみるわ」


こんないい友達の片想い相手なら全力で応援したい。俺の部活中のやることリストが増えた瞬間だった。

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