第4話

バイト帰りの夜。俺は今窮地に追い込まれている。


「おにーさーん。うちとタメくらいっしょ、ねぇ…うちとイケナイことしよ?」


バイト先を出てすぐに見るからに不良という風貌の高校生に捕まった。不覚だった⋯自分で染めたであろう金髪に、濃い化粧。どうみても典型的な不良女子高生攻略ルートです。どうもありがとうございました。


「聞いてる?うちとする気ないなら、お前から暴行にあったってそこの交番でチクってやろうかな。その高校の制服見たことあるし」


ニヤニヤしながら俺を裏路地の壁に追い詰めてくる。どっか一部でも触ろうものなら、きっと痴漢だなんだと騒がれるだろうから後退るしかない俺と、どんどん距離をつめてくる不良女子高生の攻防が続く。


(やっべ⋯どうやって乗り切るかな)


「おにーさん、結構うちのタイプなんだけどそれでもヤラないの?それともインポなだけ?ねぇどうなの?聞いてるんだけど」


とうとう俺の背中に壁が当たった。なんなら不良女子高生の体も俺に密着している。そんな時、この不良少女の目が若干泳いでることに気がついた。もしかして、この不良女子高生…演技してるだけ?煽れば俺にもワンチャンある?


「本当に襲ってほしいの?そんなに目が泳いでるのに。それに、本当に襲ってほしいなら服脱いでから行ってみてくれない?」


なるべく上から圧をかけて、ちょっとガン飛ばしながら言ってみた。


「お、泳いでなんかねーし!人一人も襲えないのに不良名乗れるかよ!」


お、動揺してる?不良って自称するあたり不良じゃないな。それなら押せばいけるか、ならここでたたみ込むしかない。圧をかけたまま俺は話し続ける。


「それに、女の子がこんな夜まで1人で外に出てフラフラしてたらそれこそレイプされたりするだろ。君は襲ってほしいみたいだけど、ほんとに襲われたいなんて思って言ってるわけじゃないでしょ」


「⋯レイプなんてされねーし!!むしろわ、うちが襲ってやるんだから!」


お、若干目潤んでる?これはもしかして、親に叱られたくて不良やっちゃった典型的パターンなのか!?随分王道パターンきたな。


「今俺は君に不良なんかじゃなくて、真っ当に生きてほしくて注意してるんだ。俺の言葉なら素直に受け入れてくれる?」


こういうのは緩急が大事だと俺は思ってる。だから今度は優しく語り返るように話しかける。


「だって⋯こうでもしなきゃ⋯」


こうでもしなきゃ…?てことはやっぱ誰かに注目されたい、とか叱られたいとかでやってるのか。承認欲求が多い子なのかな?なんか親目線の方が近いから、高校生くらいの子がこうやってるのを見るとつい、こう諭してしまいたくなる。


「金髪に染めなくったって、濃い化粧をしなくたっていいんだよ」


「う、うっせえばーか!!」


反抗期かぁ。懐かしいな、なんて思っていたら目の前の不良女子高生が突然泣き出した。俺は不良女子高生ルートに巻き込まれたくはないが、やっぱりこんな若い子がしゃがみこんで泣いてるなんて心配だ。


「大丈夫?化粧ぐっしゃぐしゃになってせっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうよ?」


「うぅ、なんで急に優しくすんだよばか!どうしようがうちの勝手だし!」


とりあえずもっていたティッシュをあげて、泣き止んでもらうように試みる。


「家どこ。やっぱこんな時間まで女の子1人でいるのは危ないし送るよ」


「1人で帰れる!!うちのこと何歳だと思ってんだよ!!ばーか!!」


そう言って、不良女子高生はダッシュで住宅街がある方向へと向かっていってしまった。今は、あの速度で走れるけど前の俺だったら元気だなぁなんて傍観してただろうな。


「にしても…エロゲキャラって確定してんのに優しくしてしまった…」


そこで俺は足元に何か落ちているのに気づいた。さっきしゃがんでた時に落としたであろう不良女子高生のもので、中身は学生証だった。学校名を見ると、友達になった晃成が近くで一番の名門女子校だ、と騒いでいた高校名が書かれていた。名前は、広瀬梨子。りこちゃん、って読むのかな。


(とりあえず学生証は交番とかに届けなきゃダメだよな。だるいけど行くか。ここが駅前でよかった。交番も近いところにあるし)


その後。無事に落とし物を発見した、という体で交番に学生証を届け終えた俺は通常の何倍も疲れて帰路についた。


(神様!どうか今後この梨子ちゃんという女の子に関わることがありませんように!)

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