第8話 魔法の授与式

 卒業試験の合格者の数は意外にも多かった。卒業候補生のほとんど全てが合格したのだ。


 メカチャック教授の採点基準について、私の試験内容を見た他職員から「あまりにも厳しい」と苦情があり、基準が大幅に緩和されたらしい。すんなりと要求に応じた教授の様子を見るに、実は最初からそうするつもりだったのかもしれないが。


 試験後は、校内にある会館へ合格者たちが集められた。


 ざっと見回しても500人近くはいるだろう。この人数をたった一人で捌き切った教授はといえば、照らされた壇上をボーッと眺めながら、座席の最前列、その端っこのほうで穏やかそうにしていた。


 私はあまり目立たないように壁際の席に座った。


 この場所。


 元々は音楽を鑑賞するために建築された場所のようで、壇場には特殊な音響設備があり、中央には鍵盤が何重にも積まれたパイプオルガンが置かれている。この胴回りの3倍はありそうな金属のパイプが、壇場から会場側面の壁にかけて無数に並べられている。あれを見ると、余計に自分がこぢんまりと感じられた。


 オルガンの音色を美しく反響させるため、内壁は特殊に加工された木材で造られている。


 パイプの周りにあしらわれている美しい石膏像たちは、原初精霊の歌う姿を模しているものだと思う。彼らの容姿よりも気になるのが、その数だ。20、いや30人分はあるだろう。実際にあれほどの数が本当にいるのかどうかは、外界の果てを目指さなくなった現代人にとって知る由もない。


 何故、魔法学校にこのような施設があるのかは分からない。


 だが、このような造りである事から、生徒間ではこの会館を「」と呼んでいた。謎が多い場所だ。一つだけ私が知っているのは、メカチャック教授がこの劇場へ頻繁に出入りしているという事ぐらいだ。


 明日には、またここで卒業式が開かれる。


 そう、まだ卒業式ではない。今日は別のイベントが予定されていた。


 の授与。


 この日をずっと心待ちにしていた。このために魔法学校へ入ったと言っても過言ではない。魔法が使えない私にとっては「才能がなくても扱える魔法」を得られる唯一の機会だから。しかし、それは私ばかりではないだろう。私のような生徒は他にも大勢いると思う。


 生徒が着席すると、間もなくメカチャック教授が壇へ上がった。


「これより証明魔法の授与式を始める」

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