古代兵器覚醒
「状況は…」
「大御所様、お怪我は…」
警固の職員が潤三郎を介抱する。
「私は無事だよ、状況を報告して」
「世知原に展開した戦力は壊滅、大友隊長率いる歩行警備隊のみが残存しています。佐世保市消防局が消化活動を展開中」
コナハトが飛んでいく空の先を睨み、潤三郎は拳を握りしめる。
「このままでは終わらせない」
………
敷鉄松浦線、その車内。
気動車独特の響きが苦しむ少年の背中を揺らす。ミナトは折角友人になれたメィヴを失ったのだ。ボロボロの姿で、泣いていた。
『次は、たびら平戸口…たびら平戸口です。』
駅に着く。緋色の巨大吊り橋を通ると、平戸に入れる。天守が海峡を見守っている。そんな日常の空に、巨大飛行空母コナハトが深い深い影を落とす。
「…野郎」
「何があったかわからんとけど、友達が攫われたと?」
「…はい」
クヨクヨしているミナトの背中に、一発ビンタを加える。
「そうしなさんな、腹減っとるとやろ?食べり?」
やはりというか、義母の言うには平戸の源泉は湧出量を減らしている。しかしそれでも、お腹は空く。
「何とかしたかった、それだけなのに…」
「もしも枯れたらその時よ。平戸は、ご飯と風景でも勝負出来るとよ?」
歴史でも勝負ができる。その筈だ。
だけど、自分が大事にしてきたものが失われそうになっている現状に納得なんて行く筈はない。
悔しさを、怒りと食欲に変換してお米と焼きアゴ(トビウオ)をかっこむ。
「メィヴ…絶対に助ける」
………
空中空母の中で、メィヴは捕縛されていた。それも、特務機関の連中の手によって。空中空母を動かしているのは本国から離反した軍部ではあるが、古代兵器捜索は特務機関の仕事であった。
「聞かせてもらおうか、古代兵器の場所を…我が君」
「いやで…え?」
コバヤシはメィヴの事を“我が君”と言った。メィヴは心なしか、自分の体が震えるのを感じた。
「何故…なら、ここまでメィヴのことなんでそう」
「騙すつもりはありませんでした、しかし非情にならねばならなかったのです。」
我が君…つまるところ、自分を上の立場と見做している者の言い方だ。
「なら、メィヴを帰えらせてください」
「帰る?ここが…いや、これから向かう“ロナクレア”が貴方の本来いるべき場所です」
作られたのはこのコナハトの中だ。だけど、自分が本当に居たいと思った場所はこんな所じゃない。
「そう易々と聞けるとも思っていない。しかしこの船は空中と水中を動ける、日本軍に見つかっても隠れることができる。時間は有り余ってるのだよ」
拘束されたまま、時間だけが過ぎてゆく。食事も与えられず、椅子に縛られたまま。
窓の外から月明かりが照らしている。世界中の時が止まった様な気がした。
メィヴは、耐えることができなかった。
彼女のマテリアルボディは少女のもので、その身体に引っ張られる様にわんわんと泣いた。
「ミナトに会いたいよぉ…!」
ダァン
一撃、拳銃が撃ち込まれた。メィヴの肩に直撃し、肩から血が出ていた。
「サプライズですよ…我が君」
「どういう…ことですか?」
撃ったのはコバヤシで、拳銃からは煙が出ている。
「その体はもう必要ない、そうではないですか我が君。すぐに手術室に運びたまえ」
手術室に案内されるメィヴ。再び拘束された後、コバヤシは医者にこう告げる。
「胸元の水晶を取り出せ」
メィヴの水晶に精神が宿っている様なもので、それを渡すとなると心が体と分離されて思うように動けなくなってしまう。
コバヤシは、体をミナトの元に送りつけるつもりだろうか。
必死の抵抗も意味なく、水晶と肉体が切り離された。
「合わせてあげますよ…その肉体を」
小舟にメィヴの肉体は投棄された。残されたのは結晶体だけで、コバヤシの手に運ばれている。
………
ミナトはまた、海を眺めていた。早朝の海を。まだ、空中空母コナハトか空に陣取っていた。
「こんな自分なんて、あのお金は…」
その最中、水飛沫がする。
泳いでその先に行くと、水晶を失ったメィヴがいた。
必死に問いかけるが答えてはくれない。しかし、一つのメモ書きが懐にしまわれていた。
「君にはもう、彼女は届かない。これは彼女からの餞別だ。受け取り給え」
陸に上がり、メィヴの蘇生を試みる。脈はある、息はある、しかし一向に意識が戻らない。膝に拳骨を加え悔しがる、本当に死んでしまったのだろうか。
ひとつ疑問点が浮かぶ。それが例のメモ書きであった。
「君にはもう、彼女には届かない…?」
素直に解釈すれば、彼女は死んでしまったというべきだろう。だが、解釈を変えてみるとしたら「彼女は生きているが、君には届かない」とも取れる。
……………
……
「…」
「“ロナクレア”は海の中ですね、我が君」
嘘は付けない、コバヤシは目の前の人間の嘘を見抜くことが出来る。だから間違った方角を伝える事なんて出来ない。
無言で肯定するしか、メィヴに選択肢は無かった。
「方角は、こっちですかね?」
「…」
「ふん、艦首を左舷に30度回せ。」
ロナクレア、アイルランドの墳墓の名前である。しかし、それは偶然か必然か、とある古代兵器の名前でもあった。
「それまで、ゆるりと船旅を楽しんでくれると…素敵だぁ」
気味が悪い、されども確かなセンスと言わざるを得なかった。そして一通り調度品と、その拘りポイントを語ったのちに部屋を去った。
その中央に、結晶が置かれてしまった。
船が増速しつつ、日本国防軍牽制していた艦載機を格納する。そして、護衛艦隊に対して威嚇射撃を行った。
「将軍、一体何をやっているのです?」
「我々に逆らうとどうなるかを見せしめていたのだ。」
「弓張警固ならまだしも、国際問題になるのは宜しくないのでは。」
「どうでもいいわ、この船を日本の領空で使っている時点でな。」
あくまで演習という体を成す。クラン・カラティンは各国の政治家と通じて計画を速やかに行ってきた。
人造人間や兵器の作成は、その人材により支えられていた。
………
「古代兵器…」
「やはり信じてはくれないよね」
佐世保市内、弓張重工本社社長室にて潤三郎と現CEOの政一が会見する。今回の襲撃の一件、そして…
「クラン・カラティン」
「彼らの目的は古代兵器、地殻に込められたエネルギー全てを扱える。自らをコアと主張している存在を、連中は狙っていた。これらを総合すると」
「その、古代兵器は存在する…そう言う事ですな、叔父上?」
無言で頷く。それだけの確信が無ければ、あそこまでの残虐を働けないはずなのだ。二人の会見の場に、急報が入る。
大規模な電波障害が発生しているのだ。
「捜索機を長崎、佐賀、熊本、大分から出してください。」
「叔父上?」
「発生している電波障害の渦中に、奴らがいる」
電波が通じづらいエリアは熊本県と宮崎県、そして鹿児島県。南西諸島へ向け敵は進んでいる。
「古代兵器は、このラインの先にある…のか?」
「彼らに先行させ、古代兵器を破壊ないし無力化する。弓張警固全体に指示してくれないかな?」
「…仕方なか、弓張警固に防衛命令」
VTOLが発進する、電波の渦の中にいる仇敵を捕らえるために。
弓張警固VTOL隊、対海賊警備会社としての側面もある弓張警固の虎の子部隊。
最も早くスクランブル発進したのは最精鋭とされる大分のOY-2隊で、薩摩川内より電波障害の渦へと入ってゆく。
「OY-24よりOY-21、全く凪いだ空です」
「OY-21より各機、気を抜くな。特にOY-24」
「OY-24、気を張ります」
水俣市上空を南下する。機体に何かが当たる音が、ピシピシとする。OY-21に積まれた成分分析機によれば、重金属雲とのことだ。
「だから局所的な電波障害が…この中に敵の親玉がいるぞ!」
重金属雲が見られるのは鹿児島県阿久根市-十島村の一帯。そのど真ん中に敵がいる、確信したOY-2隊は重金属雲の中心に燃料気化弾を投射する。
燃料気化弾が炸裂、一瞬で重金属雲全体へと爆発が広がり、重金属雲が粉塵爆発を発生させた。
「ぎゃぁぁぁ!」
「何が起きた?」
「重金属雲が粉塵爆発、船内に大衝撃」
眠りについていた将軍があたりを見回す。すると隠れ蓑にしていた重金属雲が晴れているではないか。
「弓張警固…下等生物どもが」
「上空より攻撃!」
「ふざけよって、対空砲で殲滅しろ!」
対艦ミサイルが上空から飛来、対空砲の弾幕は上に向く。その間隙を突く様に下部に回り込み、機首の155ミリレーザー砲を叩き込む。
更に機体上部対空用76ミリ榴弾砲の曲射で上部の豪華客船ユニットを損壊させる。
「ええい!虫けら如きに何をしとる!」
「将軍、相手は軍艦ばりの装備で来ています。ならば我々も答えねばなりません。」
「どうでもいいわ!やれ!」
艦砲射撃。潜水艦ユニットの隠顕式180ミリバルカン砲であり、巡洋艦以上の弾幕を浴びせることができる。
強烈な弾幕にVTOLは一瞬で消し炭になる。それを回避したとしても、対空ミサイルと機銃で撃ち落とされてしまう。
しかし精鋭、死ねば諸共と言わんばかりの捨て身の攻撃。
「全く、無駄玉を使わせてしまったじゃねぇか」
「将軍、落ち着いてください。警固の連中を最も落したのは、あなたのお気に入りのイソベです。」
空中空母が海上へと降り立つ。珊瑚礁から少し離れた、海盆の真ん中にそれはあった。古代兵器“ロナクレア”は鹿児島県の喜界島東方沖60キロに存在していたのだ。
「引き上げ給え」
「…来て」
凪いだ海が荒れる。周囲の島々に届く轟音がひびきわたる。大規模な海震の果てに、古代兵器が顕現する。
「こ…これが」
「素晴らしい眺めではないか!コバヤシ君、これがあの“ロナクレア”か」
「ええそうです将軍、我々がこれから暮らす“美しい世界”です。」
古代兵器ロナクレアが眼前に顕現する。幾千年眠りを覚ます上喜撰、と言わんばかりにコバヤシは緑茶を啜った。
……………
……
「それでは、将軍…」
「これより我々クラン・カラティンの悲願、ロナクレアに凱旋する。我に続け!」
ロナクレア城砦の内部に狂信者たちが進みゆく。
空中空母コナハトは打ち捨てられ、その他ヘリなども不要とばかりに海に投棄されてゆく。
要塞の内部に入ると金粉が巻き上がり、金や貴金属、そしてありとあらゆる宝石が散りばめられた宮殿が広がっている。
「なんで豪華なんだ」
「イソベ!全部かき集めとけ!コバヤシ貴様、そこで何油を売っとる?」
「調査ですよ、これから永住するのですから」
ドーリトル配下並びにコバヤシ配下の男女比は1:1であり、皆こぞって乱取りをしている状態にある。その喧騒は、まるで祭りのようである。
コバヤシはそれを尻目にメィヴを手に要塞の奥へ進む。
「彼らはもうダメですね…不憫だぁ」
「どう…して?」
「メィヴ様…もしや、喋れるのですか?」
「質問に…答えてよ」
「メィヴ様は、理想郷を信じますか?」
理想郷、そう漠然としあわせな世界。
そんなものではなく、みな平等な世界。同じものを考えて、同じように働く。余暇を研究や芸術に使うとされる。
「いや、多分…そんなところ、無いと思う。」
「この“ロナクレア”ならば出来る。貴方の力があればこそ、全ての人を幸せに…救う事が出来る。」
「…ミナトも?」
「当然です」
玉座の間が開く。玉座とその下にカーペットのようなものがあり、玉座といっても水晶を置くための場所だった。
横に石板があり、ロナクレア全てをコントロール出来る代物であった。
「そろそろ、彼らが浄化される頃合いだろう」
コバヤシは明白に金粉がかからない様に心がけており、服にも少ししか付いていない様に見える。
「ここにいたまえ」
メィヴの水晶体が据えられ、水晶体が浮遊してメイヴとして機能しはじめる。水晶体からのエネルギーが壁伝いに伝わり、振動が始まる。
「宮殿の人たちは?」
「我が君、些細な事も気になさるのですね。見せて差し上げましょう」
ホログラムが浮かび、例の宮殿跡の様子が見える。宝物を入れていた袋を全て乱雑に放棄して、将軍たちが全員整列していた。
その様子に、メィヴは違和感を覚える。
「なんで男女別に分かれて、しかも将軍でさえ雑兵と一緒に整列しているの?」
「我が君…あの宝石たちは彼らを惹きつけて、金粉は彼らの思考に影響を与えるファクターてす。微弱な電流を用いて脳に影響を与え、もう彼らに自己はありません。素敵だぁ…」
古代兵器ロナクレアの防御機構か、それとも古代兵器の本心か。コバヤシが一番、それに魅入られてしまっているのだろうか。
空中空母コナハトから世界へ向けて放送が始まる。
『私は“古代兵器ロナクレア”の雷を以ってこの世界を浄化する。ついに続千年帝国は終焉を迎え、真の神の世界が到達するのだ!』
古代兵器の下部、ドームの様になっていたものが開かれてゆく。そして、中央にマントルの力を操る巨大なクナイ状の突起が展開する。
『低俗で愚かな時代は終わり、新たに美しい世界が訪れるのだ。便宜上地球と呼んだデミウルゴスの星を破壊し、このロナクレアに住む者のみが神のもとへと召し上げられる!』
鹿児島県を中心とする長周期地震動が発生する。
『我々クラン・カラティンこそが選ばれし種族!デミウルゴスに縋る者共を焼き殺すのだ!』
桜島で史上類をみない大噴火が発生する。火砕流が即座に錦江湾に広がる。火砕サージが鹿児島市内までも襲い、何もかもを焼き払ってゆく。
大正時代の噴火以上の、巨大噴火が起きた。
………
岩国基地から出たF2がミサイルの飽和攻撃によりロナクレアを攻撃する。しかし攻撃は全く効かず、投擲された大量の石柱により航空部隊が壊滅する。
「ハッハッハッハ、爆発と硝煙のいい香りがここまで伝わってくる様じゃないか。」
「一体…何でそんなことが言えるの。」
「私はこの世界は穢らわしいと思っている。だから、そうでない私の同胞を集め、美しきこの船で幸福に暮らす。素晴らしい事だろう。君にもぜひこちらにきて欲しいのだがね」
男女群島の上空をロナクレアは浮遊している。後方からは、危険を察知した海上警備隊の船団が向かってくる。
海賊が増えているため、国防軍の76ミリから127ミリ砲を有する戦闘艦のお下がりで構成されていた。
「貴様たちはこの力に勝てると思うかね?」
メイヴの石板をなぞり、ロナクレアを起動する。一瞬で水柱が形成される。艦隊はそれに呑まれ、轟沈してゆく。
「よく当たる砲!絶対的な火力!そこに死があればこその芸術!素敵だぁ…!」
艦隊をいたぶり尽くし、藻屑すら浮かぶことのない海を映したホログラム。つまらぬとため息をつき、長崎県を目標に示した。
……………
……
朝7時ごろ、ミナトは朝食を取りつつもニュースを見ていた。
「雲仙普賢岳が…噴火!?」
マグマ水蒸気爆発。地質をロナクレアが弄ったことで山頂ごと消しとばす大噴火が発生。そのまま火砕流が有明海へと大挙してなだれ込む。
「状況は?」
「雲仙普賢岳がマグマ水蒸気爆発で山頂が吹き飛び、火砕流が有明海に入り津波が柳川などを襲っています。プリニー式と思われます」
「まさか…古代兵器が目覚めたのか」
さらに凶報は続き、スンダ海峡のクラカタウ火山が噴火。東南アジア一帯が火山灰に覆われた。
続けて第二ロマノフ朝のモスクワで15世紀の“大いなる地震”以来となる大地震が発生、歴史ある聖堂が崩壊したとの情報がアローリンク衛星(通信衛星)などから入ってきた。
「これはイエローストーンをやられるのも時間の問題だな。叔父上」
「あぁ…政一は先に避難してほしい」
「いや、しかし…」
「私はやるべきことがある、私の孫と君の息子を頼むぞ」
急ぎ、平戸に展開している警固職員に連絡を取る。そして、ミナトへと連絡する。
「古代兵器が動き出した。雲仙普賢岳を噴火させたりして、地球を爆発させるつもりだろう。コナハトを作る時、何のために使うか聞いた」
「…メィヴ」
電話を切り、平戸資料館の前の足湯で項垂れる。そこで背中を叩かれ、振り向いた瞬間に意識が切れた。
………
目が覚めると、何やら地下に続く巨大トンネルを斜行エレベーターの上にいた。ずっと運ばれて最下層にたどり着くと、潤三郎が待っていた。
「あれは見た?」
「はい、雲仙普賢岳が…それにここ、どこですか?」
「山野蓮の直下。百年前、米本土に弾道ミサイルをぶつける計画があった。最中に温泉が出てきたから表向き中断されていたんだ。私も、最近知ったことなんだけどね」
どうにも要領が掴めなかった。中止されているのなら、何故エレベーターみたいな近代的な設備があったのだろう。
その答えは、隧道を進むにつれて徐々に明るみになっていった。
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