第7話 狩人 シュルクの教え2
作者です。
実は狩猟修行回は3話構成にするつもりだったのですが、書いてる途中に
「これ今拾わないほうがいいな。」と思いこの話の最後に拾う手前の話をくっつけました。
見切り発車で1日1話ストック無しで書いてる弊害ですね。気をつけます。
更新内容としては最後にくっついてる部分だけで更新前の内容は変動しておりません。
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『魔法を初めて鑑定しました。心眼Lv.3を獲得』
5年間聞けなかったアナウンスがこの1ヶ月で2回聞けている。
確かな前進は素直に嬉しいが急にサクサク進み出すと今まで悩み続けていた自分に複雑な気分だ。
思い返せば初めて魔法を見た時は熱にうなされて鑑定なんて思考にはならなかった。
灯台下暗しである。
ちなみに魔法を使う師匠に対し鑑定を行なっても師匠のステータスと存在を確認できるだけで魔法に関する情報は得られなかった。
また、師匠の開示されているステータスにも変化はない。何ができるようになったのか森から戻ったら要検証だ。
そんな思考をしてる最中、師匠シュルクはのっそりと俺の背後へ回ろうとしていた。
目で追う訳にもいかないので黙ってされるがまま、突然消えた師匠の姿を探す哀れな弟子を演じる。
「おぅシュルク、どこ見てんだ?」
「し、師匠!どうやって後ろに…?」
「がははは、これが黒魔法、ってもんよ」
魔法を解きドヤ顔の師匠。
棒読みすぎて悟られるかと思ったが、さすが師匠。狩りの事以外の思考を筋肉に割いている為バレていなそうだ。
「闇属性に限らず魔法ってのは攻撃手段に目が行きがちだ。実際闇魔法が攻撃手段として優れてない、ってんで評価されてないようにな。
まぁ、見た目が魔物寄りだったりで魔物属性だなんて思われてる部分もあるだろうが。
しかし狩猟においては闇魔法の支援は他の属性では真似できん部類がある。」
「俺でも覚えられる…?」
「そりゃあ覚えられるがお前、よく考えてから取得しろよ?」
「なんで?闇属性持ってると教会から睨まれるとか?」
「それもあるな。」
あんのかよ。冗談で言ったのに。
詳しく聞いたところ正確には教会ではなく隣接している聖国が闇魔法を敵対視しているらしい。教義に触れるとかなんだとか。
ちなみに俺が住んでるこの村は王国領土である。
この辺の地理も学んでおかないと後々苦労しそうだ。村に詳しそうな人はいたかなぁ…
「聖国に睨まれるのは分かったけどそれだけじゃないんでしょ?」
「魔法に適性のない奴は1属性しか得られない。だからよく考える必要があるんだ。」
初耳ですがな。
じゃあなにか?一度選んだら適性がない限り一生涯のお付き合いになると?
確かにそんな環境なら余計に闇属性が人気ないのが納得行く。
一度選んだらリセット不可で強国から敵対視されるのだ。更に天敵である魔物に対して有利を取れない。そりゃ使用者が少ない訳だ。
「それじゃあ他の属性の利点は?」
「わしも魔法については詳しくないからな。それこそ定期的に診に来てくれる司祭様に聞きゃええだろぅ。」
確かに闇属性以外に関しては魔法を普段から使用しているし街に住んでいる司祭様の方が詳しいだろう。次はいつ来るんだったか、これも確認確認…タスクが増えすぎている。
思い返すだけでも
マナ・ハーブの摂取方法
心眼育成
精霊の芽の育成
父レイとの修行
師シュルクとの修行
世界情勢
追加で魔法の知識である。
余談ではあるがこの村に紙なんて贅沢品はないので頑張って頭の中に書き留めるしかない。
「じゃあ色々考えてみるよ、もし闇属性に決めたら教えてくれる?」
「可愛い弟子のためだからな、そのくらいかまわんぞ、いくらでも相談するがいい。」
少なくとも魔法には困らなそうだ。
「話はそれたがわしの狩りを見せよう、まずわしとお前にさっきのシャドウステルスを掛けて獲物に近づかねばならん。
隠れられるなら技術はいらないと思うかもしれないがこの魔法は万能ではない。
消えているわけではないから空気の動きや草木の擦れる音でやつらは察知して逃げちまう。
お前は少し離れたところから見てるのが良いだろうな。」
そう言って師匠は魔法を使い、俺を連れて森を進んでいく。
今回は心眼を使わなくても師の姿を捉えることが出来た。後で聞いたら同じ術者の使ったものであれば効果対象外、との事だ。
暫くして不意に立ち止まり、進んできた道脇の茂みの奥に案内してくれる。
「ここで見とれ、この先におるでな、ここからならお前にも伝わると思う。」
俺は息を殺しつつ頷いた。
師匠の雰囲気がまた切り替わる。
言い表すとしたら凪。ただの平穏。殺気などなく、いつも通りの日常と言わんばかりの何も掴ませない空気感である。
物音を一切立てずに獲物に向かい擦り寄る。
師匠の向かう先を理解したここでようやく俺にも目当ての獲物を捉えることができた。
遠くに見えるは熊くらいのサイズのシカだった。
【シルヴオオシカ】
シルヴの森に生息する大型のシカ。
子鹿でもかなりのサイズを誇る。
気性は大人しめだが感覚が鋭く、殺意を感じると突進してくることがある。
威力は2トンダンプに匹敵する。
食用 ○
なぜ解説文にダンプが出てくるんだ?
使用者の知識に引っ張られるのだろうか。それともこの世界には2トンダンプが存在しているのだろうか。トラックに轢かれた方が転生されるのはテンプレだが引いた方はどうなってるんだ?
そういえばトラックが転生する方の話もあった気がする。彼らも大変だよなぁ。いや、大概のトラック転生が脇見運転とか飲酒運転とか、居眠り運転の産物であった。同情するのもまた違う気がする。いやでも居眠り運転は同情の余地が…
脱線しすぎた。
今は集中すべきである。一箇所でも多く技を見て盗む。
鳥が囀る。草木が風になびく。木漏れ日がきらきらと地面を彩った。
フッ…
気づいた時にはシカの眉間には矢が刺さっており、静かに地面に倒れふせようとしていた。
俺にはまだ盗むどころか動きを目で追うことすらできないらしい。
「おぅルクス、ちゃんと見とったか?」
「目で追うこともできなかった…」
「がはははは!初見で見破られたらわしも立つ瀬がないからな!」
豪快に笑う師匠。先ほどまでの鋭利な刃物のような、あるいは空に浮かぶ雲のような雰囲気は消えて無くなっていた。
「そんじゃあ血を抜いて持って帰るぞ、血抜きの仕方を教えちゃる。これは目で追えるからよーく見ちょれ。」
手際はいいがちゃんと言語化して解説してくれ、とても分かり易い解体だった。
簡単な箇所も実際に手伝わせてくれる。次から1人で、とは行かないもののかなり勉強になった。
「ふむ。悪くないな。解体を任せられるくらいにはよ育ってくれよ?いつまでもおんぶに抱っこじゃ恥ずかしいぞ?」
ニヤニヤと煽ってくる師匠。こういうところは本当に山賊みたいだ。
帰路に着く師匠と俺。師匠の背にはシカ1匹。
特に異変のない帰り道。
師匠がふと足を止める。また獲物だろうか?
うんうん唸っている。
「また獲物?獲り過ぎちゃダメとか?」
「ん、あぁ…いや、森が少しざわついててな、奥の方でなんかあったのかもしれんな。」
「ふーん、?見に行くの?」
「いや、かなり深い。わしでも行かんくらいの深さだから気にせんでもいいだろう。生態系に変化があるほどだったらわしには手に負えんからな。それこそ騎士団の出番だ。」
そう言って再び歩みを進める師匠。
この時の俺にはまだ、森のざわつきを察する力は備わっていなかった。
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