第5話 師事のはじまり

レッツ修行パート


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父レイとの会話から一夜明け、早朝から庭で向かい合う親子がいた。



「ルクス。今日からお前に剣を教える訳だがその前に、考え方から教えておきたい。」


「考え方?」


「 そうだ。昨日も言ったが父さんは昔、騎士団にいた。結婚を機に村で母さんと一緒にいる事にしたんだけどね。」


「その騎士団での考えを、できればルクスにも受け継ぎたいんだ、聞いてくれるかい?」



「騎士は守るものを何としても守るから騎士なんだ。僕の教えを受けるということは騎士の心得を継ぐということだ。」


「息子には危険なことはしてほしく無い。だがな、守ると決めたからには守り通せ。背に負うのは守りたいもので敵じゃない。護り通すことだけ考えろ。父さんとの約束だ。」



ここまで真剣な顔をする父に素直にかっこいいと思った。普段ふわふわしているのに。


かっこいいな。

守ると決めたら守り通す。か

それができる大人になりたい。

口だけにはなりたくない。



「分かったよ父さん。約束する。騎士だった父さんの息子として恥ずかしくない冒険者になるよ。」


「あぁ…ありがとうルクス。だからと言って無闇に危ない事に突っ込んで行くのとは違うからね?」



苦笑いする父に心の中で誓う。

その日からルクスの座右の銘となる、心に強く刻まれる言葉であった。



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「気を取り直してまずは剣だな。」


そう言って木剣を手渡す父。


《普通の木剣》

品質 普通

普通の木剣。練習用。


何の変哲もない木剣だ。

重さも重すぎず軽すぎず、これなら振るだけで筋トレにもなるだろう。



「よし、まずは一回打ち合ってみようか!構えろルクス!」



待て。何と言った?まさか脳筋なのか父さん。



「父さん?まだ振り方も教えてもらってないのに早いんじゃない…?」



抵抗虚しく、俺の特訓は始まるのであった。



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めちゃくちゃきつい。せかいがぐるぐるまわる。

俺は汗だくだくで庭に転がっていた。


口調はいつもの父そのままに優しいが、内容が鬼だった。

前世では運動部にいたとはいえ、社会に出てからは嗜む程度だった。

ましてや剣なんて振ったこともない。

慣れてない動き、剣を振るという恐怖。

慣れないことをするというのは思う以上に体力を削っていた。

にも関わらず実戦寄りの立ち合いである。

週一くらいでいい。



「明日の朝からは素振りからしようか。その後また打ち合いかな!」



毎朝の地獄が決まった瞬間である。


僕に修行をつけることが嬉しいのかニッコニコの父。これでは文句も言いづらい。


これもまた親孝行であると思う事にしよう…

そうしないと精神が持たない。逃げ出しちゃう。



「今日はこの辺にしようか、汗を流しておいで」


「ご指導ありがとうございました…」


「また明日ね!」



ニッコニコの父と別れる。

元騎士はさすがと言うべきか、一滴として汗をかいていなかった。大人と子供とはいえ少し悔しい。


因みに2時間ほどの修行でステータスは変わっていなかった。


そりゃそんな簡単にレベルが上がったら苦労はしないだろう。

けど。でも。だって。


上がったっていい辛さだった。(精神的に)


脳内で文句を言いつつ汲んできておいた井戸水とタオルで汗を流す。


この村に風呂はない。というのもこの近辺は魔物の活動が控えめであり、魔石が不足している為である。

魔石とは魔物から取れる素材であり、魔物の属性、強さから性能、大きさ、純度が変化する。


魔物の属性に左右された効果をもたらし、魔物の強さが大きさ、純度に影響している。

大きく純度が良いものほどより良い効果、というイメージだ。


つまるところ魔石があれば温水も自由自在、冷凍庫も用意ができる。


話は戻るがそんな余裕この村にはないので贅沢品なのである。

冬場はキツイなぁ。元日本人としてはお風呂が恋しい。

都市部では銭湯に近い大衆浴場があるらしい。

とんでもない話だ。文化レベルが違う。


冒険者になったら利用しなくちゃな。



「ルクスくーん!いるー?って何で裸なの!?」



都会への想いにふけっていたら幼馴染の声が飛んでくる。



「人聞き悪いこと言うな!下は履いてるだろ!?」



上裸なだけである。断じて屋外で全裸になってなどいない。

時代が時代なら捕まってたかもしれない。



「あ、ほんとだ…ごめんねルクスくん?」


「まぁいいよ。それで?なんか用だったんだろ?」


「あ、うんっ、シュルクさんがルクスくんのこと呼んでこいー!だって!」



シュルクさんが…?

何用だろうか、野菜交換しに行ってからそんなに経ってないはずだけど。



「わざわざ伝えてくれてありがとな。」


「このくらいどうって事ないよーっ」

「ルクスくんとも話せたし…」(小声)


「なんか言ったか?」


「んーん!何でもない!女の子にそんな事聞くなんてルクスくんはほんとデリカシーないんだから!」



なぜかキレられる始末である。

デリカシーないのか俺…



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気を取り直し身体を清め終わった俺はシュルクの元を訪ねていた。



「シュルクさーん?ルクスだけどー」


「おールク坊!ルミちゃんになにかしたのか?ここまで声が聞こえてきたぞ?」



がははと笑いながら茶化してくる山賊風狩人。


ここまで聞こえてんの?

村中に響き渡ってるんじゃないかあの声…



「汗拭いてただけだよ…ちゃんとズボンは履いてたよ?」


「まぁそんなこったろうとは思ったけどな!それはそうとほれ!前言っとったマナ・ハーブ取ってきたぞ!」


「おぉ!助かるよシュルクさん!」



きたきたきた!

待ってたよマナ・ハーブ!

レベルが上がった時に効果があるからレベルを上げ始める前に間に合って助かった。



「こんなまずい葉っぱ何に使うんだ?お前狩りもできんだろぅ?」



そういえば言い訳を考えていなかった。

正直に鑑定で見た、と言えば正気を疑われるだろうし食べるため、と言っても引かれて止められるだろう。



「お、俺も狩りにちょっと興味があって!捕まえられた時にないと不便でしょ?」


「子供1人で行かせられるか!ったく…わかった。わしもついて行こう。狩人の全てを叩き込んじゃる。」



己の考えなしの言い訳を悔やむと共に、2人目の師匠ができた瞬間であった。

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