第3話 めを育てよう

「おはよ〜父さん、母さん」


「やぁルクス。おはよう、誕生日に相応しい気持ちのいい朝だね」


「誕生日おめでとうルクス、お母さんこの日を迎えられてとっても嬉しいわ♪」



そう。ハッピーバースデートゥーミー。

ルクス少年5歳の誕生日である。


転生してから5年間、家事の手伝いや心眼を用いた鑑定、体内で感じる事のできた魔力の操作をしてみたり、と自己を育てる毎日であった。


女神との話が確かなら心眼はレベルが上がる事でできる事が増えるはずだ。しかしこの5年間。全くと言っていいほど変化がない。物の名前と状態が分かるだけ。



《ルクス 好調》


以上である。

こんな事ならレベルアップ条件を聞いておけばよかった…



母さんがテーブルに朝ごはんを用意する中、父さんが話しかけてくる。


「さてルクス。この村では5歳の誕生日を迎えた際に行う伝統があるんだ。」


「気が早いわよレイ…朝ごはんを食べてからね?」


「すまないルーナ…僕も浮かれているらしい、食べたら一緒に庭に行こうか。」



そう言って苦笑する父さん。

伝統ね、難しい事じゃないといいけど…



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黒パンと色彩豊かなサラダを胃に収め、両親と共に庭に向かった。


因みに鑑定結果はこちら。


《黒パン 普通》

《サラダ 新鮮》


だからどうした。である。

この目は毒性のある食べ物に気づけるのだろうか?


閑話休題。

庭に着く。


「この村ではね?5歳の誕生日に精霊の種を植えるの」


「精霊の種?」


「しっかり育てる事で風の精霊にお願いするの。元気に育ちますように、見守っててください、ってね♪」



所謂願掛けというやつだろうか?

いや、ファンタジーの世界だ。

魔法的なものが介入してるかもしれない。



「これが精霊の種だ、お前が責任を持って育てるんだぞ。」



父から手渡されたのは変哲もない小さな種と何も生えていない植木鉢。

心眼で見てみても【精霊の種 状態 良好】としか書かれていない。


丁寧に種をまき水をあげる。



「今までと同様にうちの農作業の手伝いと母さんの家事の手伝い、そして精霊の種を育てるのがこれからのルクスの仕事だ。頼めるか?」



ニヤリと父さんは笑いかける。



「もちろんだよ父さん、任せといて!」


小学生のアサガオの育成に似たものを感じ、前世ズボラだった俺は当時の様に水をやり忘れ枯らさないようにしようと気を引き締める。


これからどんな成長をするのか楽しみだ。



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それから数日。

芽が出た。綺麗な若緑色の芽だ。


変化も無いだろうが習慣となりつつある心眼で鑑定してみる。



『精霊種を初めて鑑定しました。心眼Lv.2を獲得』


「…は?」



思わず声が出た。

無機質な女性の声…というか今は懐かしい女神の声がしたかと思えば心眼で得られる情報が増えている。


【精霊の芽】

種族 精霊種


風の精霊が宿った芽。

まだ精霊は弱く、開花には程遠い。



ガチで精霊関係ですやん。

迷信とか願掛けとか思ってごめんなさい。


というかレベルが上がった。

この5年間、色んなものに心眼を使ってきたが名前と状態しか分からなかった検索機能が遂にバージョンアップしたのだ。


思った以上の成果に思わずにっこり

そして開花とか書いてある以上、この芽を育てると何らかの恩恵があるとみていいだろう。いやあってください。頑張りますんで!



今まで以上に成長が楽しみになっていた。



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芽が出て数週間。この世界にも四季はあり夏に近い暑さを感じ始めていた。日本の夏は暑かったなぁ。いつからあんなに暑かったんだろう?小学生の頃の夏は外で駆け回れた暑さだと思ったんだが。



「ルクス。話があるんだ」



む。日本の夏を懐かしんでいたら父の声である。

改まるとは大事な話だろうか?



「ルクス。お前は将来どうしたい、とか夢はあるのか?」


「夢、夢かぁ〜」



父親としてはこのまま家の畑を継いでほしい部分もあるのだろうか。しかしせっかくの異世界である。危険とはいえ男の子だ。生き残る為に得た心眼を活かして大冒険に出るのも憧れてしまう。



「俺、冒険者になってみたい、かも」



冒険者。

魔物を倒し、素材を集め、生業とするもの。

この世界は魔王、そして準ずるものに蹂躙されている。

ギリギリ拮抗を保っているが前線では戦争が起き、また各地で自然発生した魔物に襲われる村も多々ある。


そんな魔物から人々を救い、平和を保とうとするのが冒険者だ。まぁ中には汚い事をしている者も居るとは思うが。



「危険だぞ。命を落とすかもしれん。」



分かっている。


昔、この村にもゴブリンの群れが襲来した事があった。

事前に情報を聞きつけ滞在してくれていた冒険者パーティによって事なきを得たが、一部の家畜が犠牲になり怪我人も出た。


ゴブリンでこれなのだ。

運が良かっただけで上位の魔物であったら大事になっていたかもしれない。


それでも。カッコよかった。

そのパーティは輝いて見えた。助けられた事に安心と感謝と、そして大きな憧れが心には残った。



未知の景色と大財宝。

弱気を助け悪を挫く。



「俺、それでも冒険者になりたいんだ。」


「…ふぅ。まぁお前が憧れてることは分かってたさ。だから今日、話題に出した。」



知られていたらしい。恥ずかしいなこれ



「しかし大切な息子をそのまま送り出すなんて父さんにはできない。そこでどうだろうか、父さんの訓練を受けてみないか?」


「訓練?父さんが?」


「こう見えて父さんは母さんと結婚する前、騎士団に居たんだぞ〜」




衝撃の事実である。



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作者です。


タイトルは芽と目のダブルミーニングのつもりです。センスが稚拙。


そしてタイトル回収だけだとまた文量がしょうもなかったので次話の繋ぎとさせていただきました。

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