第6話


 キーンコーンカーンコーン


 ザワザワザワザワ



「圭吾〜、飯行こうぜぇ〜」


「おう、正樹まさき、ちょっと待ってくれ」



 僕は教科書等を机の引き出しに突っ込むと、立ち上がって正樹の後に続こうとした瞬間、制服を背中から引っ張られた。



「うおっ!」



 振り返ると美弥がお弁当を差し出した格好でそっぽ向いていた。



「ん、お弁当…」


「え?美弥が作ったの?」



「いや、お母さんが…だけど」



 どうやら、若菜さんは早速、母親らしく僕にまでお弁当を用意してくれていたらしい。



「なんだ、圭吾?愛妻弁当か?」


「え?いや、そんなんじゃないけど…」



 どちらかと言えば、お袋の味になるのではなかろうか?



「兎に角、渡したから。じゃ」



 ええ〜?


 もう少し渡すのにマシなタイミングとか状況とか無かったのかな〜?美弥さんや…。



「まあ、いいか、正樹、お待たせ」


「……お前さぁ〜、あんまり堂々とイチャつかれると周りの男子から呪い殺されるぞ? 」



「いや、イチャついてはいないだろ」


「だって、愛妻弁当なんだろ?それ」



「いや、愛妻弁当…ではないな。うん」



 何度、この美弥から手渡されたお弁当と、その状況とその経緯の情報を反芻はんすうしても、結果として、やはりこれは愛妻弁当では無いと結論付けざるを得ない。


 うんうん。


 と1人で納得していると、正樹は1人納得していない状況の顔で、



「あっ、そ」



 と、一言いって歩き出した。



「あ、正樹」


「ん?」



「弁当って食堂で食べても問題ないよな?」



 今まで学食に通ってて食堂で弁当を広げている生徒を見た事が無かった為、何となく聞いてみた。



「まあ、問題はないだろうが、食券を買って席を探してる奴にとっては迷惑だろうな」


「なんだよ、そんなこと言ってたら正樹と食えないじゃん」



「いや、無理して俺と食わなくても金谷かなやと食えば良いじゃん」


だよ、何で女子に囲まれて1人そんなたまれない空間で、悲しくめしわにゃならんのだ」



「いや、なんでだよっ!金谷と2人で食えばって言ってんだよ!弁当わざわざお前の為に作ってくれたんだろ?」



 まあ、若菜さんがわざわざ僕の為に作ってくれたのは確かだけど…



「……いや、ん〜?そういうものなのか?」



 若菜さんが、美弥と家族としてもっとフレンドリーにれるように、いや、この場合はれる為にか?



「まあ、今日は良いじゃん。もう別れちゃったし」


「え?お前らって、そうなの?」



「は?何が?」


「あ、いや何かスマン……ん?それなのに弁当は、くれたのか??」



「だから、なんの話しだよ!」



 正樹からのよく分からないグタグタな問答もんどうを終え、食堂へ行き、席を確保する。



「正樹、こっち」


「お、すまんな」



「親子丼?」


「ああ、なんだか急に食いたくなってな」



「そうなんだ」


「そう言うお前の弁当は、随分と気合い入ってるな」



「そうだな」



 中には、俵型のおにぎりとミニハンバーグ、タコさんウインナー、鳥の唐揚げ、きんぴらごぼうにプチトマトとミニブロッコリーが添えられていた。


 若菜さん、父さんと出勤時間、おなじだろうに…無理しているんじゃなかろうか?



 そんな思いを巡らしながら、感謝を込めていただく事にする。



「いただきます」


「いただきます!」



 ガツガツ



「うん、うめぇ!やっぱ親子丼当たりだったな」


「そりぁ良かった。あむっ、ん!?このハンバーグ美味うまっ!!」



 これ、まさか手作りなのか?ひき肉と玉ねぎの比率が黄金比なんじゃないかと思うほどに食感と味が良い。


 冷えてるのにこの味わいとは、出来たてなら更に美味うまいことこの上ないのではなかろうか。



「ふぅーん、なぁ、俺にも1つくれよ」


「親子丼、半分とならいいぞ」



「いや、レートが明らかにおかしいだろ!」


「それだけ美味いんだよ」



「へぇーへぇー、ご馳走様だよ、たくっ!」


「なんだよ?今日はえらく卑屈ひっかかるじゃん」



「べっつにィー。あ〜そうだ、拓斗たくとが、また皆で集まってカラオケとか行かないかって言ってたぞ」


「また?春休みにボーリング行ったばっかじゃん。彼奴あいつ、中間試験の事とか、頭から抜け落ちてんじゃないのか?」



「まあ、来年から受験勉強地獄になるから、今年めいいっぱい遊びたいんじゃねえの?」


「まあ、本人いいなら別に構わないが、他人を巻き込まないでほしいもんだ」


「だよなぁ〜」



「だいたい拓斗の奴って、そんなにかねあまってんの?高校生の平均小遣いの支給額、分かっててモノ言ってんのか?彼奴あいつ!」


「だよなぁ〜」



「おお、そんな悲しい事、言わないでくれよ!友よブラザー!」



 唐突に後ろから声を掛けられ、僕の肩を揉んでくる拓斗。



「誰がブラザーだ、巫山戯んな拓斗!」



 そんな手八丁口八丁てはっちょうくちはっちょうやからは、1人しか知らないので、直ぐに肩に乗せている手を大袈裟に払う。



「おお、怖っ!流石は、誰もが恐れる影の裏番フィクサー


「フィクサー言うなし!この前、美弥にまで言われたんだぞ、変な渾名あだな付けやがって」



 此奴こいつこそが、僕の小学校時代からの天敵と言っても過言では無い、腐れ縁の御堂みどう拓斗たくと


 言いたか無いが、そこそこイケメンの上に、そこそこに金持ちの会社を経営している所の跡取り息子ボンボンだ。



 本当に、こんなえん、さっさとくさちてしまえばいいのに。



「まあまあ、クラスの全員一致で納得の二つ名だと思うぜ」


「だよなぁ〜」



「おい!正樹まで!」


「あ、スマンスマン。ついな」



「何だよ、ついって」


「そんな事より友よブラザーかねが無いのかい?なら俺の取っておきの、お手頃な小遣い稼ぎが出来るバイトを紹介しちゃうぜ?」



「お前が紹介する仕事バイトとか、胡散臭うさんくさ過ぎて、へそちゃかすレベルだわ」


「だよなぁ〜」



「俺の扱い、酷くないっっ!!」




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