第4話

 高校2年の始業式が始まる少し手前の春休み。


 僕は父さんに強制連行されて小洒落たレストランに来ていた。


 春休みとか言いつつ、夜はまだまだ冷え込む。


 ああ、ヤダヤダと心の中で愚痴りながら父さんの後ろを歩く。


「お?若菜さん達もう先にきてるみたいだな。ほれ行くぞ圭吾」


「はいはい」


 うんざりしながら父親の背中を見ながら店の中を進むと父さんから声を掛けられる。



「お待たせしました、若菜さん。息子を紹介しますね。圭吾、こちら、うちの会社の同僚で、金谷かなや若菜わかなさんだ。若菜さん、息子の圭吾けいごだ」


「初めまして、圭吾君。金谷かなや若菜わかなです。隣りは娘の美弥みやよ。ほら、美弥ちゃん、挨拶して」



「はっ?えっ?はっ?」



 まさに青天の霹靂、寝耳に水、虚をつかれるとかの騒ぎじゃない。


 あまりの非現実に思考がパニックを起こし、何がどうなってんだと繰り返し思考がぐるぐる回る。



「えっ?えっ?えっと…」



 当然、美弥も同様な様でワタワタしてた。


 うん。可愛い。



 そんな美弥を見ていて大分落ち着いてきた。


 うん。状況を整理しようか。



 僕はすぐにロジックを開始し始めた。



「なんだ?圭吾、あまりの美人さんに見蕩れて言語中枢でも狂わされたか?」


「美弥ちゃん、やったわね!圭吾君ったら結構なイケメン君だよ?かっこいいお兄ちゃん出来て良かったわね!」



「いや、圭ちゃ…吾くんは、同じ学年だからお兄ちゃんとかにはならないから」


「あら、そうなの?」


「そうよ、クラスも一緒だし…」



「お?そうなのか圭吾?」


「いや、まあ、あのクラスのマドンナ的な人物がいきなり家族とか言われても戸惑いの方が大きいっつうの」



「マドンナ的って…裏参謀フィクサーが何か言ってる」


「フィクサー言うなし」



「ふふん、私の事をマドンナとか言うからだよ」


「いや、マドンナは褒め言葉だろ?」



「私は、ちやほやとあがめられるような存在には、りたくないの!」


「なんだよ、ならプリティーウーマン的とかの方が良かったか?」



「ん〜、ま〜あ?圭ちゃん的にはベストアンサーな訳なんだろうけど、私の心のベストプレイスには、まだハマらないかなぁ〜?精進したまえ」


「はいはい、言ってろ」



「あ〜、圭ちゃんひどっ!真礼まァ〜やぁ〜、圭ちゃんがひどい~よぉ⤴⤴」



 若菜さんに抱きつこうとして、目の前の現実に美弥の身体と顔が硬直して止まる。


 二親の顔もポカーンとしてる。



 そりゃそうだ、何せ僕たちはやらかしてしまったのだから。



「あ、はははぁー、な、何か、何時ものクラスの駄べり再現、しちゃったなぁー」



「くくく、下手くそか。棒読みにしても酷すぎる」


「なっ!ひどっ、私がせっかく何とかしようと…」



「わかったから、な?」


「う、うん」



「と、言う訳で父さん、若菜さん。見てもらった様に、ウチらはクラスの割と大きめのグループカーストに在籍してて、で、結構男女関係なく団体で遊びに行ったり、勉強会開いたりする訳。だからと言っても、それぞれ学生の分をわきまえた関係構築は、してる。だから父さん、若菜さん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」



「そ、そうか?そんなに仲良くて、ちゃんと家族になれるのか?」


「大丈夫だって!だって、僕たち、2、今付き合ってる彼氏彼女居るし」



「あ、そうよね?美弥ちゃん彼氏君が居るって、そういえば、いつ頃お母さんに紹介してくれるの?」


「え?ま、まあ、その内に?」



「また、そんな事言って、何時いつもはぐらかすんだから」


「あはは〜」



「あ、すみません。ちょっとお手洗いに行ってきます」



 そう言って目で美弥に合図する。


 コクリと頷く美弥。



 これで、後は父さん達から見えない所で美弥に電話すれば、自然と退席させられるだろう。


 そそくさと移動して、美弥に電話をかける。



 プルルルルル


 プルルルルル



 ブーブー


 ブーブー


 マナーモードで振動しているスマホを両手で持ちながら美弥が小走りでやってくる。



「どう言う事!」


「第一声目がそれなのか?」



「それ以外なにがあるのよ?」


「まあ、そうな。あまり時間も取れないから手短に現状把握といこう」



「うん、もちろん」


「まあ、うちの父親と美弥の処の母親が再婚を考えて今、食事会が開かれている」



「そうね、どうしてそうなったのかは知りたいけれど」


「うちの親父オヤジが言ってたろ?同僚だって。それ関係だろうな」


「うん、そう…だね」



「んで、今1番、二親に知られちゃ不味い事がある」


「それは?」



「僕たちが恋人同士だって事」


「え?な、何で?」



「バレれば、この2人の再婚は無くなるだろうな」


「え?そなの?」



「そうだよ、考えてもみなよ、イチャカップルが、これから毎日、同じ屋根の下過ごす事になる。となると両親はいつもイチャカップルを監視しなきゃならなくなる。保護観察責任ってやつだな。だけど四六時中、親が子供を見ていられる訳がない。親の目から離れたイチャカップルはどう行動すると思う?」


「え?イチャイチャする」



「そうだな、でイチャイチャの先は」


「ぐぬぅ」



「まあ、そうなるよな?毎回、親の目を気にして過ごすストレス発散の為に、過剰にイチャイチャは止まれない処まで白熱し、親の目が無くなる度にヤリまくるだろうな」


「ぐぬぬぅ」



「んで、大人ってのは合理性を求めるから、そんな危険があるって分かっているのなら答えは簡単だ」


「……再婚しない」



「そゆこと。だけど、それは父さんと若菜さんの幸せを壊す事に繋がる」


「うん、そだね」



「なので、僕たちの目標は高校卒業して、独り立ちしくは、1人暮しが可能となる時まで、僕たち2人が恋人同士である事を知られない、若しくは感ずかれない様に立ち回る事だ」


「うう、だけど、それって私達が辛くない?」



「家にいる時だけだろ?恋人関係は外でも学校でも出来るし、むしろ家に居る時間より長いぞ?」


「でもでも、だからって何時でも2人っきりって訳じゃ無いじゃん!」



「ん〜、でも、これって今までと何か変わるか?」


「え?」



「住む家が一緒になるだけだろ?むしろ一緒にれる時間が増えるだけじゃんか」


「あ、本当だ」



「だろ?だから、僕たちの関係をきちんと話す時は」


「親元を離れる時」



「そういう事。よく出来ました」


「むう!また子供扱いした!圭ちゃんの意地悪っ」



「好きな子には意地悪したくなっちゃうんだよ」


「小学生男子かっ!」



「あっ、と、やばい、そろそろ戻らないと、今、美弥も僕もいないんだから心配どころか変に勘ぐられる」


「不味いね」



「ああ、不味い。だから美弥、この後も上手くやれよ?」


「リョーかいっ。でもフォローもちゃんとしてね」



「もちろんだよ、流石に自分で自分の首を絞める真似はしないよ」


「一蓮托生だもんね」



「蓮の台の半座を分かつって?」


「死なばもろともだよ」



「そうだな…死ぬ時は一緒だ」


「圭ちゃん、それってプロポーズ?」



「重いとか言わんの?」


「私も十分、重い女だよ」



 ちゅ



 不意打ち気味に頬にキスをしてくる美弥。



「…なんか元気出た。じゃあ行くか!戦友!」


「おうよ!相棒!」



 そうして、僕たちは2人っきりの2年間という過酷な試練に立ち向かって行くのだった。






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