第2話


「ねぇ、そろそろ僕たち付き合おっか」



 私にとって、それはまさに特大のサプライズだった。


 まさかの展開に声が震えないように頑張るのに必死だった。



 けいちゃんこと、真咲圭吾まさきけいご


 私がその存在に気がついたのは小学四年生の秋。



 私が無くしたお気に入りのシャープペンシルを一緒に探して見つけてくれた男の子。


 私はその日から度々、彼の事を目で追いかけていた。



 見た目は陰キャな眼鏡男子なのに、彼は周りを良く見ている。


 何気に誰かしらのフォローや、事前に起こりそうな問題の解決策や次善策を考えて提起してたりする。



 地頭ぢたまが良いのか、率先してリーダー格にはならないけれど、所謂いわゆる1つの影の参謀的な立ち回りを得意とするようだった。


 もちろん成績も何時も上位に位置し、運動もそこそこにこなしていた。



 そんな彼の隣りに立ちたくて、私も色々努力した。


 自分の容姿が、元々もともと優れているのは分かっていたけれど、その上で自分磨きを怠らないようにし、中学に入ってからは、彼に勉強を教えて貰うていで友達を巻き込みつつ彼と徐々に仲良くなって言った。



 彼がどんなものに興味があり、どんな事が好きなのかを調べ、私も学んでいった。


 そして、ようやくお互いを名前で呼ぶようになり、同じ高校を目指す程の仲までになった。



 高校に入学すると自分の容姿のせいか、良く告白される事が多くなった。


 それがまさかの彼からの告白に繋がるなんて!



 けいちゃんの隣りに並び立っても相応ふさわしくなれる様に毎日、自分磨きを欠かさなかった自分を褒めてあげたくなる。


 そしてその日、私達は恋人になった。



 それからの日々はまるで景色が違った。


 今までとやっている事は同じなのに、皆んなに隠れてコソコソと2人でじゃれ合ったり、手を繋ぎ合ったりして2人っきりの時間を楽しんだりした。



 休日には2人で映画を観たり、デパートでウィンドショッピングしてぷらぷらしたり、それでも今までとおんなじだったとしても、私は最高にハッピーだった。


 その最高潮は今日の花火大会だった。



 圭ちゃんとキスをした。


 初めてのキス。



 顔見知りじゃ有り得なかったキス。


 友達だと無茶ぶりでしかなかったキス。



 親友でも出来なかったキス。


 2回も唇に触れて、抱きしめ合って、帰りの家の前で、舞い上がり過ぎて彼の頬に私からキスをした。



 あんな暗がりでも彼の、圭ちゃんの顔が真っ赤に染まっているのが見て取れた。


 凄く可愛い。



 スマホの待ち受けにしたいくらい可愛いかった。


 やっぱり私の彼氏は最高だ!



「ただいまー」


「おかえり、美弥ちゃん。思ったより早かったのね」



「え?あ〜、うん。ちょっとね」


「ん~?何かあったの?」



「え?うん、まあ、ちょっと、ね」


「なになに?」



「もう、いいじゃん。別に」


「何よ~?良い雰囲気になって、誰かに告白でもされたの~?」



 ニヤニヤしてくるお母さんがちょっとウザイ。



「告白はされてない、てか私、付き合ってる人いるし」


「なになに?ちょっと、もういい人いるの?お母さんにも紹介しなさいよ」



「ええ~、まだいいよ」


「あら、まだって事はいつかしてくれるのかしら」



「ゔゔっ、そ、そのうちね!」


「あら、楽しみ。ふふ、ならお母さんもそのうち美弥にいい人紹介しようかしら?」



「え?お母さん、再婚するの?」


「ん~、どうかしら?いいなぁって人は居るにはいるんだけどねぇ」



「まあ、お母さんの幸せなら自由にすれば?」


「まあ、まだお互い良いかもって感じだけだから、今の所なんともねぇ~」



「ふふ、まあ、お母さんがその人の事、本気で好きなら、頑張ってみれば?」


「そお?ならお母さん、ちょっと頑張っちゃおうかな?」



 そして私は、お母さんとこの会話をした事を、この半年後に後悔する事になる。


 この日ハッピー通り越して幸せの絶頂だった私は、普段なら応援なんてそうそうしないのに、幸せのお裾分けみたいに、お母さんに強く進めてしまっていた自分を殴ってやりたい。

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