第4話
さて、都市管理の迷宮前までやってきたわけだが。
この手の迷宮は都市によって完全に管理されているようで、衛兵が配置されている。
迷宮へと入ろうとすると入口の前にいる二人の衛兵に冒険者の証である鉄製のプレートを提示するように求められた。
懐からプレートを取り出し提示すると、衛兵はチラッとプレートを見てスッと道を開けて通してくれた。
都市管理の迷宮の入り口は一言でいうなら地下鉄の駅の入り口のようだ。地下鉄の駅と比べたらだいぶ横幅デカくした感じになるが。
20人くらいはまとめて横に並べて入れそうな大きさをしてるからな。
材質はコンクリートというよりは大理石みたいにつやつやしてる。
階段横には手すりがついてる……さらにはゴムっぽいすべり止めまでついてるな、ますます地下鉄っぽい、明かりは蛍光灯か……? もしくは魔法的なサムシングで光ってるのだろうか謎が多いな。
この世界の文明レベル的にこの地下鉄駅の部分は迷宮誕生と同時に勝手にできたもんなんだろうなぁ。
もしくはなんらかの高位の技能持ちか転生者が作ったものかもしれないが。
しばらく階段を下りていくと広場のような場所に出た。
ここらの地面は普通に土だ。そして地下に降りてきたはずなのに上を見上げると青空が広がっている。
迷宮というのは摩訶不思議なところだな。
この辺も人通りはなく、モンスターが出てくる目的地はまだ先のようだ。
とりあえず、まっすぐ歩いていくと横一列に柵が設けられてる場所まで来ることができた。これ左右から回り込まれそうだが意味あるんだろうか?
柵のそばには看板が立て掛けられていて、この柵をこえてしばらくするとモンスターが出るので注意と書かれている。
やっとモンスターを狩ることができるようだ。
今日の食い扶持を稼ぐため、魔力を鍛えるため、さっそくひと仕事するとしようかね。
とりあえず柵を超えて進んでいくと、ちらほら3人組くらいの粗末な服を着た連中がこん棒もってうろついているのが見える。
この辺をうろついてモンスターを探すのが低級冒険者のセオリーみたいだな。
俺は他の冒険者に絡まれるを避けたいのでもうちょい奥の方まで行くことにする。
さてこの迷宮でもっともポピュラーなモンスターと言えば、ロックポテトというモンスターだ。
見た目は茶色い色をした石の塊のようなモンスターでその名の通り岩のような硬さを持つ、30CMくらいの大きさの物体だ。
この大きさの石の塊が結構な速さでぶつかってくるのだ。
当然油断してまともにぶつかられたら骨の一本や二本は折れる、なんなら当たり所が悪ければ死ぬ。
わりとシャレにならない攻撃手段を持ってるモンスターだ。
こいつの体当たりを躱しつつ一撃を入れて凹していくのがこいつへの対処法だ。
まあ1対1ならそこまで脅威じゃない、複数きたら一気に脅威度が上がるが。
こいつを最下級クラスの雑魚モンスターだと舐めてかかって死ぬ冒険者は後を絶たない。
まあ攻撃さえよければあとは作業だからね、舐めるのはわからなくもない。
来るときに見かけた3人くらいで組んでた連中が人通りの多いところいたのは、不意打ちを受けないようにかつ1対1以上にならないように人がそこそこいるところでロックポテトで沸き待ちをしているからだろう。
俺はその辺に気を付けないでいいのかって? まず俺の体はあくまで仮初の体だから骨の一本や二本折れても大丈夫なんだ。その程度なら簡単に治せるし痛覚を遮断できるので痛みに悶絶することもない。
最悪ロックポテトの体当たりをまともに受けて吹っ飛んでも問題ない。
肉体が粉々になっても死ぬわけじゃないからな。
それと、こう見えてこの肉体はそこらの冒険者より身体能力が高い。仮にも【超級死霊術】という高位の魔術によって作れられた肉体だからね。
死亡するリスクもないことだし、人通りの多いところで沸き待ちするよりは奥のこの辺でじゃんじゃんモンスターを狩る方が効率がいいというわけよ。
「ふんっ!」
セオリー通り、見つけたロックポテトの攻撃を躱しつつ一撃をお見舞いする。
俺の身体能力から放たれる一撃はそこらの最下級冒険者とは比べ物にならないほど威力があり、一撃でロックポテトを粉砕する。
んで、こいつらは倒すと死体を残さず消滅する。迷宮産のモンスターの不思議なところだ。
同じ種類のモンスターでも地上にいる迷宮産じゃないモンスターはちゃんと死体が残る。
迷宮産のモンスターは死体が残らない代わりにドロップアイテムを落とす。ゲームみたいだね。
こいつが落とすのは直径10CMの大きめのジャガイモと小指の先ほどの小さい石ころ……石ころというか魔石というアイテムだな。
どっちも銅貨1枚で売れる。ジャガイモは出ない事もあるが魔石は必ず出る。
魔石っていうのは一言でいうならこの世界の便利燃料だ。文字通り魔力がこもってるらしく魔道具の燃料になるほかいろいろ使い道があるらしい。
その辺の詳しいことは俺の知識にはない。スラムでのたれ死ぬような連中は魔道具とあまり縁がないのだ。
最下級冒険者の日給が銅貨7~8枚……一人当たり1日に5体くらいロックポテトを倒すのが普通だ。
まあ命かかってるから、そんなぽこじゃか狩れんのよね。俺みたいに仮初めの体ってわけじゃないから一撃もらったらほぼ死ぬ……足の骨が折れたらほぼ戦闘不能よ、追撃食らって死ぬ。
ともかくこの辺ならジャンジャンモンスター狩れそうだしどんどん狩っていくことにする。
半日ほどロックポテトを求めうろうろしつつ狩っていただろうか。
そろそろ背負い袋にジャガイモが入りきらなくなってきた。
背負い袋の中身はジャガイモが13個に魔石が29個だ。
なかなかの戦果と言えよう、ロックポテトを29体倒したわけだしな。
このまま冒険者ギルドまで帰る。
行きと違ってそこそこ冒険者で埋まっている。買取受付の前はどこも並んで列が出来ているな。
おとなしく並んで自分の番を待つことにする。
並びつつほかの冒険者の様子をうかがうことにする。
服装や買取に提出してるものの量を見るにここにいる殆どの冒険者が最下級クラスの冒険者のようだ。
男女比は男の方が多いが女性も割といるな……まぁこの世界は魔力で身体能力が強化されるから女性でも強い人は強いんだろな。
おっと、俺の番が来たか。
ドサッとジャガイモと魔石をカウンターへと置く。
さすがにこの量の成果物を一人で持ってくるのは少ないらしく受付嬢もちょっと驚いた顔をしている。
とはいえ、いなくはないんだろうな……すぐに気を取り直すと決済をしてくれる。
銅貨42枚が今日の俺の成果だ。
このうち銅貨20枚を立て替えてもらった借金の返済に充てる。これで後銅貨80枚で借金は完済だ。
えっ? お前が借りたのは銅貨10枚じゃなかったかって? 立て替えてもらった時点で銅貨10枚は100枚の借金へと変化するんだよ。
んで今年度は利息は付かないんだけど来年度から毎年銅貨50枚が利息として付いてこの銅貨50枚を年度ごとに払えないと奴隷落ちします。
かなりえげつない事してくるよね冒険者ギルドも。
とはいえ銅貨50枚はまじめに稼いでたら払えない額じゃないんだよな。怪我とかしなければね。
ちなみに奴隷落ちした場合は男は運が悪いと鉱山に送られ、運が良ければ農園行き。
女性は見た目が良ければ娼館行き、残念な見た目なら農園行き、鉱山に送られることはまずない。男より生存率高いぞ。
わりと奴隷の需要は高いらしい、奴隷=デッドって感じではないがまあ碌なもんじゃないね。
農園行きって実際どんな感じなんだろね? 中世の農奴とは違うんだろか? プランテーションでもやってるんかね? その辺の知識は持ってないんだが。
まあとりあえず、このまま返済していけばすぐに借金は返せそうだし俺には関係ない話だろう。
お金も得ることができたことだし、今日はもう宿に泊まって寝ちまおう。
なんとこの体寝ることもできます。あんまし寝る意味ないけどね。
というわけで記憶を漁って思い出し、適当な宿に泊まることにする。
来たのは不愛想なおばさんがやってる安宿だ。
大部屋に雑魚寝で銅貨1枚、個室の部屋なら銅貨10枚。
食事は別にお金が必要で一番安い奴で1食銅貨1枚ちなみに内容はゆでた迷宮産の芋のクォーターカット版だ。少なくね? って思うかもしれないが迷宮産の芋はかなり結構でかいのだ。
ここは個室に泊まる&銅貨3枚のそこそこのご飯を頼むことにする。
銅貨3枚のご飯は茹でた芋クォーターカット+謎肉入りのスープだ。結構いける。
そして個室の部屋だが部屋の中はなんにもない。ベッドすらない、壁と天井があるだけましだってね。
安宿なんてこんなもんよ、なんで大部屋の10倍も金出してこんな部屋に泊まるかというと。
大部屋は治安があれなんで気を抜くと酷いことになるんだよ、少なくとも宵越しの金をもって泊まるところじゃない。
最悪身ぐるみはがされて外に転がされてる可能性すらあるからね。
というわけでおやすみなさい。
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