第5話

 そんなこんなで、毎日モンスターを狩っては換金する日を繰り返して3ヶ月の月日が経った。

 狩るモンスターもロックポテトから肉団子なるモンスターへと変化して使用武器や防具もより強い武器へとチェンジした。

 まず武器は木刀からバスタードソードへと変更した。

 片手で扱うには大きく両手で扱うには小さいとリアル世界では散々な評価な剣だったが、軍で使うならともかくいろんな状況下で戦う冒険者にとっては使い勝手のいい剣だ。

 冒険者だとロングソードやツーハンデッド・ソードを使う方が珍しい。

 ロングソードはそもそも馬に乗らないんだからショートソードでええやんってなるし、ツーハンデッド・ソードはデカすぎて取り回しがつらいんで冒険者で使う人は少ない。

 まあその辺の武器談義は置いといてこのバスタードソード銀貨10枚もしたよ、たけぇ。

 銅貨に換算すると実に1000枚分。

 ついでに防具の方も革製のレザーアーマーやらレザーグリーブやら一通りそろえて銀貨10枚程。

 武器防具はやっぱり高いね、合わせて銀貨20枚の出費だよ。

 ともあれこれで見た目はいっぱしの冒険者、冒険者としては中堅くらいの実力に見えるようになったわけだ。

 木刀では歯が立たなかった肉団子もこれなら楽勝よ。

 俺の今の狩りの標的の肉団子君がどんなモンスターかというと分厚い皮膚に覆われた筋肉の塊だ。

 全身これ筋肉といった体に丈夫な皮膚を持っているためものすごく頑丈なモンスターなのだ。

 一層のロックポテトを粉砕してきた俺の木刀も、肉団子には太刀打ちできない。

 一層をうろうろしている最下級の冒険者では装備的にも技量的にも相手にならない強力なモンスターなのである。

 出てくる場所は二層という隔絶した場所なんで問題ないけどこいつが一層に流れ出たら確実に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されるだろうね。

 ドロップアイテムは肉と魔石とたまーに皮を落とす。

 肉は銅貨2枚、魔石はロックポテトのより若干大きいので銅貨2枚、皮は銅貨5枚で売れる。

 正直レザー装備の値段やら町で出される料理のお値段を鑑みるとめっちゃ搾取されてる気がするが……売れる伝手もないししょうがないな。

 そして二層で狩りをしてる冒険者はほっとんどいなかった。

 というか俺しか狩ってないんじゃないか? ってくらい見かけなかった。

 まあ、二層で狩れるくらいの実力と装備があるならもっとおいしい仕事があるからね、しょうがないね。

 これくらいの実力があるなら、用心棒とか隊商の護衛(メインじゃなくて数合わせだが)とか上級市民街への門の警備とかいろいろできる。

 そこら辺のごろつきや盗賊より肉団子のが強いしな!

 

 まあ、その辺の話は置いといて、この三ヶ月で魔力もだいぶ増えた。

 結構なハイペースでモンスターを狩っていたのと、効率強化系の能力を持っていたのもあって並みの冒険者が10年鍛えたレベルの力を得ることができた。

 まだまだ無敵と言えるほどではないが、出来ることは格段に増えた。

 【物質生成】も自分の身の回りの物程度をどうにかするには問題ない。

 そろそろ行動パターンを変えて新しいことに挑戦したいところだ。

 とはいえ何をすればいいか思いつかないしとりあえず冒険者ギルドへ行ってみることにするのであった。

 何か面白い仕事でもないかと依頼掲示版を物色しているとギルドの職員に声をかけられた。


 「クラタさんにお願いしたい仕事があるんですが……」


 クラタさんとは俺のことだ。ビジネスライクな付き合いしかないとはいえ3ヶ月も足繫く通っていれば顔と名前も覚えられる。

 

 「はい、なんでしょう? 」

 

 とりあえず、無難に返事する。

 地の文とキャラが違う感じがするのは所謂処世術というものだ。

 仕事の対応ならそら多少は丁寧に会話するよ。

 

 「じつは、とある場所で迷宮が発生したようなのでそれの調査をお願いしたいんですよ」


 迷宮の調査とな? こういうのは中堅冒険者でもパーティーを組んでいる連中に依頼するもののはずだ。

 俺みたいなソロに頼むのはちょっとありえない。しかも俺は依頼の実績も殆どない。

 なんせほぼ迷宮とギルドと宿を行き来するだけの毎日を送っていたからな、わんちゃん戦闘能力を評価された可能性もあるが……

 

 「私にですか?」

 

 とりあえず、こう聞いてみる。

 言外になんで俺に頼むんだ? てニュアンスも含めて。


 「いえ、その迷宮の場所がここから10日程歩いた距離の場所らしいんですが、本来そこには村などもなくほおっておいてもそれほど問題が出ない場所です。ですが依頼で調査をして欲しいと……」


 と話したところで声を潜めて。


 「ですので、新進気鋭のクラタさんに特別にお願いしようかと、ご領主様からの直接の依頼ですと失敗したら大問題ですしこう言った簡単な依頼から実績を積んでいくのがいいのでは……と思いまして、もちろんクラタさんなら問題なく調査を完了していたただけると思っています」


 あー、あー、なるほどねー。領主からの依頼じゃないのかー。

 俺に頼んできた意味がわかったわ。

 まず情報その一、位置が結構遠い……正直ギルドとしては自分の管轄外だから迷宮がどうなろうとどうでもいいんだろうな。

 んで情報その二、依頼主が領主じゃない……というか身元のわからん奴臭い。

 普通領内の迷宮は領主が管理してるはずだから、領主以外の依頼ってのはまず、ない。

 近隣の村から陳情が来たとしてもまずは領主が取り合うはずだ。

 ってことはこれの依頼主は隠し村の人間臭いな。ご近所に迷宮が出来てしまって慌てて調査の依頼をしてきたんだろう。

 隠し村っていうとましに聞こえるかもしれんが、ぶっちゃけ盗賊の根城と大して変わらん。

 盗賊行為を働いてるかどうかはわからんが、領民扱いされてないだろうから当然税金は納めてないだろう。つまりは無法者の集まりなのだ。

 最悪出向いたら身ぐるみ剝がされて転がされる可能性もあるぞ。

 と黙っていろいろ脳内で考えていたら、ギルド職員がさらに話しかけてきた。

 迷ってると判断されたかな?


 「依頼額も破格の銀貨10枚ですし、クラタさんだから特別にご紹介しているんですよ?」

 

 銀貨10枚……は別に破格じゃないな。

 この手の依頼の相場は銀貨20枚からのはずだ。

 俺はソロだから銀貨10枚をまるまるもらえると考えれば、破格扱いになるかもしれんが……。

 この手の危険な依頼を安値の値段で紹介……しかも破格の依頼とうそをついて。ついでに危険な部分をぼかしてる。んー、これは俺、舐められてるかもしれないなぁ。

 まぁ、ほぼソロで活動していてほかの冒険者とも交流がないルーキー。戦闘力だけは高いが扱いやすい使い捨てにちょうどいい奴と思われたのかもしれん。

 あとギルド職員は基本的に冒険者の事下に見てるしな……まぁ、冒険者なんぞスラムのごろつきに毛の生えた程度の者。底辺には違いないしな! こういう扱いをされるのもわからんでもないが。

 とりあえず失敗してもいいや、むしろ冒険者の一人くらいなら死んでもいいやって気分で紹介してそうだなこれ。

 さてこれはどうしようかな? 普通なら拒否一択なわけだが……。

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