保身

エビフライの尻尾が私の喉を刺した。思わず顔を歪める。ご飯を口の中に詰め込んで一気に飲み込む。

「どうしたのよ、早智」

母さんは綺麗にエビフライの尻尾まで噛み砕いて食べていた。

「別に、尻尾が喉に刺さっただけ」

「健康に気を付けないと駄目よ。自分の体調と怪我を心配してないで体壊したらどうするの?」

最近母さんは私に小言を言っている。私も留学することに心配はあるが、母さんは私よりも心配していた。

「大丈夫だよ。絶対に帰ってくるから」

そう言って少し味の薄い味噌汁を飲み干すと私はすぐさま自分の部屋に籠った。

「早智」

リビングで母の声がしたのは気のせいだろう。


夜八時、時計の鐘が鳴る。スマホに触れて友達と連絡を取ろうとしたけれどやめた。体を伸ばすと、さっき取っておいた封筒が手に当たった。


良かったられんらくしてね!


小学生のころに外国へ住むことになった恵利華ちゃん。私みたいな一人で住むということはないだろう、しかしどれだけ不安になったんだろうと気になった。少し、連絡してみたくなった。


私はゴミ箱に捨てるはずの小さい頃使ったレターセットをプリントを束ねた所から取り出した。柄は少し派手な花柄。今は時間がないのだから仕方がない。

年賀状は多少書くけれど、手紙を書くなんて小学生ぶりだ。多分、正式にはペンで書かなければいけないのだろう。無いからボールペンを使った。

―――――――――――――――――――――

恵利華ちゃんへ


ごめんなさい。急に連絡して。小学校で六年間同じクラスだった早智だよ。

実は高校を卒業したら恵利華ちゃんの住んでいるアメリカに留学しに行くの。

―――――――――――――――――――――

そこまで書いて私は唸った。次は何を書こう。漢字を間違えた。手紙があと一枚しかない。失敗出来ない。

そうこうしていたら12時の鐘が鳴っていた。

―――――――――――――――――――――

恵利華ちゃんへ


急に連絡してごめんなさい。

小学生のとき一緒のクラスだった早智だよ。

実は一ヶ月後アメリカに留学するの。高校生のとき英語の先生と話しているうちに外国に興味が出てきて留学することに決めたんだ。でも最近母さんに外国は危ない。あなた本当に留学先でやっていけるの?とか言われてて...私も恵利華ちゃんみたいに社交的じゃないし、現地には友達も居なくて楽しく過ごせるか決心したのに不安なんだ。外国で住んでいる恵利華ちゃんなら何か対処法があるのかな~。と思って手紙を書いたよ。手紙を返してくれると嬉しいな。


早智より

―――――――――――――――――――――

なんとか手紙を書き終えてアメリカへの手紙の送り方をスマホで探して封筒に書いた。翌日、郵便局まで行って手紙を届けた。その後の一週間はとても長く感じた。






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