「無事でしたか。」


全て終わってビルから出た俺を、拳児とほたるが迎えてくれた。


「二人でいるってことは……そう言うことか?」


もし、ほたるが拳児のことを理解出来なければ、そのまま逃げかえっていただろう。

そうしなかったということは、拳児がほたるにすべてを打ち明け、そしてっほたるがそれを受け入れたということだろう。


「嬢ちゃん、拳児はもう知ってると思うが、極道組織の後継者だ。分かってるな?」


ほたるは俺の言葉に、一瞬険しい表情を見せた。しかし……。


「拳児君に全部聞きました。分かった上で、です。それに……」


ほたるが拳児に目配せをすると、拳児は俺の前にまっすぐ立つ。


「俺、親父に言って極道から抜けることにしたんです。堅気になって、ほたるを幸せにしたい。」


拳児はちゃんと今後のことを考え、ほたるに告げていた。


「ありがとうございました。報酬は……。」


拳児が俺に報酬額を訊ねる。

しかし、俺の答えは決まっていた。


「結局、俺の仲介がなくてもこうなったんだろう? 今回俺は喧嘩しただけだ。報酬はいらねえよ。その代わり……」


申し訳なさそうな顔をする拳児。

俺は拳児に自分の生き様を教えてやることにした。


「何色にも染まるんじゃねぇ。男は人の言葉に、世間に簡単に染まっちゃいけねぇ。俺はそうやってこの世を渡ってきた。俺は何も色にも染まらない、闇のように黒い生き方を、これからも通していくつもりだ。」


後ろ暗い生き方しかしてこなかった。

今の仕事も、世間の闇に紛れたような黒い仕事だ。

それでも信念を持って他の色に染まらない、そう生きてさえいれば、俺は前を向いて生きていける。そう思っている。


「俺も貴方のように生きたい! 自分の色を貫ける、そんな男になりたい!」


去ろうとする俺の背に向かい、拳児が叫ぶ。

俺は、振り向くことなく答えた。



「俺の生き方なんか真似するんじゃねぇよ。人間、ちゃんとお天道様の下を堂々と歩いて行くのが幸せってもんだ。」


俺は雑踏の中、暗闇に溶けるように拳児の視界から消える。


拳児はしばらく、俺の方向に向かい頭を下げ続けていた……。

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何色にも染まらない 桂木 京 @kyo_katsuragi

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