翌日から、俺は仕事を始めた。

拳児と女子生徒は、俺の力など必要がないくらい自然に話し、そして仲睦まじかった。


「別に、俺がいなくても成功するんじゃないか?」


そう、思わせるほどに。

彼女の名前は『ほたる』と言った。

拳児はほたるに夢中の様子だった。

何度も食事に誘い、出かけようと声をかけた。


ほたるは心優しい女性で、嫌がることなく拳児に付き合った。


友達と言うよりは、『親友』。

そんな表現がぴったりの二人だった。


「それで、親父さんはなんて?」


「親父は、俺の恋路は自由だと言ってくれてます。『ちゃんと分を弁えろ』とだけしか言われてません。」


そう、拳児の父を俺も知っているが、そういう人だった。

息子である拳児に、同じ職業に就いて欲しくなかった彼は、普通の生活を送れと、拳児に口うるさく言っていたのをよく覚えている。


しかし、俺の予感と、拳児の予感はともに当たった。


拳児の恋路を後継者争いに利用しようとするものが必ず現れる。

そう、俺も拳児も思っていたのだ。

注意してみると、ほたるの周囲には拳児の『職場』の幹部の手の者が必ずいたのだ。


直接蛍に危害を加えることは無いだろう。

しかし、何らかの手段でほたるを拳児に近づけることで、拳児に恩を売り、会社内での自分の立場を確立させようという思惑が、そこには見て取れた。

その者達の中には、俺のよく知る顔もいた。


俺が当時の職場内で最も注視していた、危険人物。

地位や名声のためならば手段を選ばない、『狂犬』と呼ばれた男である。


「アイツの動きには気を付けた方が良い。お前に対しては従順かもしれないが、俺はアイツがいちばん危険だと思っている。」


念のため、俺は拳児に注意を促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る