5
翌日から、俺は仕事を始めた。
拳児と女子生徒は、俺の力など必要がないくらい自然に話し、そして仲睦まじかった。
「別に、俺がいなくても成功するんじゃないか?」
そう、思わせるほどに。
彼女の名前は『ほたる』と言った。
拳児はほたるに夢中の様子だった。
何度も食事に誘い、出かけようと声をかけた。
ほたるは心優しい女性で、嫌がることなく拳児に付き合った。
友達と言うよりは、『親友』。
そんな表現がぴったりの二人だった。
「それで、親父さんはなんて?」
「親父は、俺の恋路は自由だと言ってくれてます。『ちゃんと分を弁えろ』とだけしか言われてません。」
そう、拳児の父を俺も知っているが、そういう人だった。
息子である拳児に、同じ職業に就いて欲しくなかった彼は、普通の生活を送れと、拳児に口うるさく言っていたのをよく覚えている。
しかし、俺の予感と、拳児の予感はともに当たった。
拳児の恋路を後継者争いに利用しようとするものが必ず現れる。
そう、俺も拳児も思っていたのだ。
注意してみると、ほたるの周囲には拳児の『職場』の幹部の手の者が必ずいたのだ。
直接蛍に危害を加えることは無いだろう。
しかし、何らかの手段でほたるを拳児に近づけることで、拳児に恩を売り、会社内での自分の立場を確立させようという思惑が、そこには見て取れた。
その者達の中には、俺のよく知る顔もいた。
俺が当時の職場内で最も注視していた、危険人物。
地位や名声のためならば手段を選ばない、『狂犬』と呼ばれた男である。
「アイツの動きには気を付けた方が良い。お前に対しては従順かもしれないが、俺はアイツがいちばん危険だと思っている。」
念のため、俺は拳児に注意を促した。
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