第2話
やっぱり、そんなわけなかったなと、僕は気落ちして尋ねた。
「どちらさまで……?」
「あははははっ!」
被せるように、甲高い女性の笑い声がした。
それが純粋に楽しそうというよりは、どこか意地悪な響きを含むことを僕は聞き分けていた。
職場にそういう人がいるのだ。
その笑い声は、その人を想起させたのである。
「あははははっ!」
彼女はいつまでも笑い続けていたが、それで名乗ろうともしない。
僕はうんざりしたのと気味が悪いのとで、それ以上相手にせず、部屋に引き上げた。
と思ったら、ガチャガチャガチャガチャと、しきりにノブを引く音がした。
僕は、飛び上がるくらい驚いた。
押し入ろうというのか。
続けてダンダンダンと、ドアを叩く音がする。
「どうして? ねえ、どうしてなの?」
女性は、絡むような詰問口調になったが、そのような言われ方をしても初対面の僕は答えようがない。
僕は、彼女をなだめるつもりで立ち上がった。
部屋を間違えているのでは、と声を掛けたが、彼女はドアを叩き続けた。
「マサシ! いいから出て来なさいよ!」
マサシ?
やはり、間違えている。
それで、僕はマサシではありません、その人はここにはいませんよ、と告げた。
すると、しんと静まり返った。
やれやれ。
僕が胸を撫で下ろすと、ドアの向こうから、ヒックヒックという声が漏れてきた。
泣いているのだろうか。
僕はスコープで彼女の様子を覗き込んだ。
やはり長い前髪で顔を覆ったまま、肩を震わせていた。
彼女は彼女で、そのマサシという男に翻弄されていたのだろうか。
今夜の自分と思い重ねると、彼女の泣き声が自分のそれのようにも聞こえてくる。
「だ、大丈夫、ですか」
つい、僕の声が詰まり気味になる。
「ヒック、ヒッ……」
その声が耳を打っていたが、やがて彼女がドアに手をつくような音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます