Nightmare:悪い夢

悠真

第1話

 僕は、六畳一間の築三、四十年くらいになろうかという、非常に古びたアパートに住んでいる。


 二階建ての木造で、合わせて十戸の部屋があったが、入居しているのは一階角部屋の僕と、二階の真ん中だけのようであった。

 それ以外の部屋は、夜中帰宅してきても電灯がついている部屋はなく、日中はいつ見ても他の部屋は雨戸が閉まっていた。

 それでも内装はきれいで、ユニットバスでトイレも同じだったが、最寄り駅には歩いていけ、なおかつ家賃も相場より半額ほどの穴場物件で、フリーターの僕は十分に満足していた。

 ただ、やはり安いには、それなりの訳があったのかもしれない。


 僕は、最低な気分で家に帰ってきた。

 夜、恋人である彩未と連れを含めて四人で一緒に食事をしていた。

 そのさなか、ふとした会話の流れで僕は彼女に二股を掛けられていたことが分かったのである。


 それで怒りと悲しみのあまり、僕は一人、レストランを飛び出してきた。

 小雨の降る中を駅まで走り切り、電車に飛び乗りると、降りた駅からはまっすぐコンビニに向かった。

 そして大して飲めもしないのに酒を持てる限り雑多に買い込んだ。

 むしろ、飲めないからこそだった。自棄をおこして、一番自分らしくないことをして頭を飛ばしたくなったのである。


 アパートに戻ると、僕は靴を脱ぎながら、たまらず袋に手を突っ込みビールに手をつけた。

 噴き出した泡を狭い玄関の床にこぼす。

 それが気に入っているスニーカーにもかかったが、それさえもう僕にはひたすら痛快だった。

 

 二本目の缶を開けて、部屋のクッションに寝転んだところで、玄関のチャイム音がけたたましく鳴った。

 思わず時刻を見た。

 10時半。

 これまで、僕のアパートを訪ねてきたのは、せいぜい契約を求めるNHKか新聞屋くらいで、滅多に誰も来ない。

 ましてや、深夜。

 不審でしかない。


 僕は、げっぷをしながら、ふらふらと玄関のスコープに顔を近づけた。

 白いワイシャツ姿の、髪の長い人が立っている。

 前髪で顔がすっかり隠れているが、背丈や細い肩回りからして女性のようだ。

 一瞬、彩実が追ってきたのかと思ったが、シャツの色が違う。

  

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